ほっと一息

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2026.07.29

ファクトで読み解く農業

JA広報通信2026年7月号

東京大学大学院 特任教授・名誉教授●鈴木宣弘

 

ファクトで読み解く農業

米の需給調整 出口対策強化に転換を

 

 「令和の米騒動」の原因は米不足だったと農水省がやっと認めて、流通・農協悪玉論は否定されたはずだが、今なお農協の概算金への批判を耳にする。現状の小売り米価は農協の概算金から算定される水準よりもはるかに高い。つまり、他の業者が相当高い価格で農家から買った米が売られているのだ。需給が緩み下落する可能性も指摘されている。
 このチグハグな事態の改善には農家の疲弊の解消と併せて需給安定機能の強化が不可欠だ。
 豊凶変動が大きい農業で、生産での調整には限界がある。猛暑の影響も強まる中ではなおさらだ。これまで農家も農協もよく頑張った。それでも米価は下落し続けて農家は苦しくなった。「安過ぎる米価」で農家を追い詰めてきたのは、小売り・流通業界と消費者にも、そして、それを放置してきた国にも責任がある。
 これからは生産調整でなく「出口調整」の仕組みの強化が不可欠だ。一つは備蓄用や国内外の援助用の政府買い上げ制度を強化し、買い上げと放出のルールを明確にして需給の調整弁とする。さらに、米のパンや麺、飼料用米、米油で、輸入の小麦・飼料・油脂類を代替する需要創出に財政出動する。
 そして、一番重要なのは、消費者と生産者の適正米価のギャップを埋める直接支払いによって消費者には高過ぎず、かつ、農家は経営を継続・発展できるセーフティーネットをつくることだ。農家へのセーフティーネットの中身を問われて「コストダウンとスマート農業と輸出」と答えた政治家もいるが、意味が理解されていない。このままでは稲作の衰退が止まらず、中長期的に米騒動が繰り返すことになりかねない。
 今こそ、①麦や大豆の生産振興も必要だから転作奨励金は維持し、米については、用途を問わず、60キロ当たり2・2万~2・5万円と市場価格との差額を補填(ほてん)し、何をどれだけ作付けるかは現場の判断に委ねる ②米の政府在庫は、米価が1・5万円を下回ったら買い入れ、2万円を超えたら放出するといったルールを明確にして運用する――というような具体的な数値に基づく詳細な政策枠組みの提示が急がれる。

 

※日本農業新聞 2025年9月23日付「今よみ」を一部改編

 

東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授・名誉教授
鈴木 宣弘(すずき のぶひろ)
1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。近著に『いま知りたい お米と農家の話』(農文協)、『もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』(+α新書)、『令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?』(文春新書)などがある。