ほっと一息

ほっと一息

2026.06.22

ファクトで読み解く農業

JA広報通信2026年6月号

東京大学大学院 特任教授・名誉教授●鈴木宣弘

 

農産物輸出の「非対称性」 不利解消へ支援策を

 

 2025年の農産物の輸出額は1割強増えて1・7兆円になったが、政府目標の2兆円には及ばなかった。しかも、5700億円と一番金額が大きい加工食品の原材料は多くが国産でなく輸入農産物なので、この数字は「水増し」だ。
 かつ、世界の農産物輸出は「補助金漬け」だ。米国の穀物などは米も他の穀物も安い国際相場の水準で売っても農家には再生産価格との差額が全額払われる。
 欧州も、穀物などの販売価格は安くコスト割れだが、多額の補助金が出されて、コストの払いきれていない分を支払って残りが所得になる。フランスでは所得に占める補助金率が235%の小麦農家、143%の酪農家の事例もある。安く売って海外を含む市場拡大が可能になる。
 さらに、米国は牛肉や果物も日本のスーパーで試食販売などをしているが、費用は米国の農家が拠出している基金と同額を連邦政府が負担している。政府が国家戦略で輸出振興しているのが世界の当たり前の姿だから、日本はかけ声だけで何もやっていないに等しい。
 また、日本が米国に輸出できる牛肉の低関税枠は200トンだけで、それに実質5万トン(6・5万トンのうち英国に1・5万トンが優先的に割り当てられたため)の「複数国枠」の一部しかなく、枠外関税は26・4%だ。
 これに対して、日本は米国からすでに日本の輸出枠の1000倍以上の年間二十数万トンの牛肉を輸入し、関税は今後9%まで下げる約束をし、輸入急増時の緊急輸入制限は、超過した分だけ制限数量を増やしていく約束なので、日本は実質無制限に米国からの輸入を増やさなくてはならない。
 この非対称性の解消が不可欠だ。そして、農家の所得を確保しつつ消費者は安く買えて需要を拡大できる差額補填(ほてん)政策は世界の常識だ。これに逆行する生産制限を未だに米や酪農や砂糖などで続けているが、これは農家の首を絞め、輸入にさらに市場を奪われ、いざというときに国民の食べる物がなくなる飢餓への「負のスパイラル」だと一刻も早く気付いてほしい。

※日本農業新聞 2026年2月10日付「今よみ」を一部改編

 

 

 

東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授・名誉教授
鈴木 宣弘(すずき のぶひろ)
1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。近著に『いま知りたい お米と農家の話』(農文協)、『もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』(+α新書)、『令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?』(文春新書)などがある。