ほっと一息
2026.05.27
ファクトで読み解く農業
JA広報通信2026年6月号
東京大学大学院 特任教授・名誉教授●鈴木宣弘
ファクトで読み解く農業
短絡的な「成長産業化」 農村崩壊前提の誤謬
日本の人口問題では「あと数十年で人口は半減するから、それに合わせた社会構造に転換しなくては」という議論がよく行われるが、強い違和感を覚える。人口減少前提でなく、人口が減らないようにするのが政策ではないか。
同じ議論が農業・農村についても行われている。農業就業人口が急速に減少し、農家はさらにつぶれ、農業・農村は崩壊する。だから、わずかに残る人が「成長産業化」するか、企業などの参入でもうかる人だけもうければいいではないかと。みながつぶれないように支える政策を強化すれば事態は変えられるという発想はない。
「食料自給率」や「農村」という概念は希薄だ。「国消国産」のために食料自給率を向上するという考え方もないし、農村コミュニティーが維持されることが地域社会、伝統文化、国土・治水も守るといった長期的・総合的視点はない。
一方、お金を出せばいつでも食料が輸入できる時代ではなくなったのだから、今こそ国内生産への支援を早急に強化し、食料自給率を高める抜本的な政策を打ち出すと思ったが、そうなっていない。
食料自給率を軽視する発言が繰り返され、国内農業支援は十分で施策強化は必要ないとの認識が示される。そして、効率的かつ安定的な農業経営には「施策を講じる」とする一方、多様な農業者については「配慮する」だけ。定年帰農、半農半X、消費者グループなど多様な農業経営体の役割が重要になっている農村現場を支える意思はない。
一方で「規模拡大によるコストダウン、輸出拡大、スマート農業」が連呼され、加えて、海外農業生産投資、企業の農業参入条件の緩和を進める。誰の利益を考えているのか。
無人農場などが各地にポツリと残ったとしても、農山漁村の大半が原野に戻り、地域社会と文化も消え、食料自給率はさらに低下し、不測の事態には超過密化した拠点都市で餓死者が続出するような歪(いびつ)な国に突き進みかねない。
農業・農村のおかげで国民の命と暮らしが守られていることを今こそ認識しないと手遅れになる。
※日本農業新聞 2024年4月16日付「今よみ」を一部改変

東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授・名誉教授
鈴木 宣弘(すずき のぶひろ)
1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。近著に『いま知りたい お米と農家の話』(農文協)、『もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』(+α新書)、『令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?』(文春新書)などがある。


