ほっと一息

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2025.08.18

身近な草木 和ハーブ入門

JA広報通信2025年8月号

植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴

 

ゲンノショウコ 日本人の健やかさを足元で支える

 

 ゲンノショウコは日本人の暮らしの中で薬などに使われてきた和ハーブです。人気の海外ハーブ・ゼラニウムと同じフウロソウ科で、道端などに群落するものの背丈は低く目立ちにくいかもしれません。
 「良くなった証拠がたちまち現れる」「験を担ぐより効き目が現れる」「言より証拠」など、ちょっと不思議な名前も、こういった由来を聞けば納得でしょうか。先人たちが小さなこの草に大きな信頼を寄せてきたことがよく伝わってきます。
 滋賀県と岐阜県にまたがる伊吹山麓の集落では、これをヨモギやドクダミなど10種ほどとブレンドしてお風呂やお茶にする文化が受け継がれ、土用の丑(うし)の頃にゲンノショウコを干して使えば万病の薬になるともいわれています。
 面白いのは地域により花の色が異なることです。夏を迎えると西日本では主に紅紫色、東日本では白色の花が咲き始めます。そして伊吹山麓では紅白両方が入り混じっているのです。「そうか、ここが日本の東西文化が交わるおへそなんだ!」と花に教えてもらえます。ちなみに葉の見た目は、有毒のウマノアシガタや、トリカブトの春の新芽にも似ています。慣れないうちはむやみに手を出さず、植物に詳しい方と一緒に歩いて、開花期に葉や茎の特徴を見ておきましょう。
 ゲンノショウコの観察はこの先、秋もお薦めです。外気の乾燥が進むにつれて、黒っぽく熟した果皮の繊維が徐々に縮みます。そして臨界点を迎えた瞬間、くるりとカールして種子をはじき飛ばすのです。その風情がみこしの屋根飾りのようだから「神輿草(みこしぐさ)」とも呼ばれてきました。まさに実りの秋、お祭りシーズンにぴったりの呼び名ですね。昔の人は足元の植物を本当によく見ていたのだと感動します。

 

 

 

花から果実への移り変わりも楽しい

 

 

植物民俗研究家/一般社団法人和ハーブ協会副理事長
平川 美鶴(ひらかわ みつる)
8月2日“ハーブの日”生まれ。全国各地の足元の植物と人のつながりを訪ね、日本人らしい生き方や感性を探求。講演、執筆、ものづくり、フィールド案内、実践ワークショップ、地域創生プログラムなど幅広く携わっている。著書に『和ハーブのある暮らし』(エクスナレッジ)など。