ほっと一息

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2025.03.12

身近な草木 和ハーブ入門

JA広報通信2025年3月号

植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴

カキドオシ 「円とご縁」の万能和ハーブ

 

 「カキドオシ」とは何やら耳慣れない呼び名ですが、漢字で表すと「垣通し」。開花後に伸びる茎がつるになってお隣さんとの垣根をぐんぐん通り抜ける、そんなおちゃめなエピソードに由来します。
 

 緑地や道端を歩いていて、足元からなんとなくミントのような匂いが上がってきたら、そこにはカキドオシが生えているかもしれません。シソ科の仲間で、バジルやミントやシソをかけ合わせたような独特の香りと風味があります。チドメグサやツボクサと見た目が似ていますが、カキドオシの場合は葉の縁に丸みを帯びたのこぎり歯があり、まるで硬貨が連なっているようにも見えます。

  特に春、薄紫色の小さな唇形の花を付ける頃の香りが最も柔らかいため、そのまま摘んでサラダに散らしたり、さっとゆでてあえ物にしたり、フレッシュ和ハーブティーにしたりして旬の恵みを味わいます。摘んでから乾燥させておけば一年中楽しめますので、お茶はもちろん、塩とミックスさせて「カキドオシソルト」にしてみてはいかがでしょうか。
 

 このカキドオシは飲食ばかりでなく、私たち日本人の祖先たちが暮らしの身近で大切にしてきた薬草でもあります。血糖降下の作用など、現代の生活習慣病予防に貢献する和ハーブとして密かに注目されています。ただ都市部の外では「草刈りのときのにおい」といわれてしまうくらい繁茂しありふれているせいか、有用性には気付きにくいようです。
 

 つる状に伸びる性質を生かして地植えにすればグランドカバーに、ハンギングポット(壁などにつるす鉢植え)に仕立てればかわいらしくまとまるのでお薦めです。
 

 春または秋に株分けし、日なた~半日陰で育てます。施肥は特に必要ありませんが、土の表面が乾いたらたっぷりと水やりをしましょう。生命力そのものを表す名を持ったカキドオシが、力強いご縁を結んでくれるような気がします。

 

足元に香る、春の宝物

植物民俗研究家/一般社団法人和ハーブ協会副理事長
平川 美鶴 (ひらかわ みつる)
8月2日“ハーブの日”生まれ。全国各地の足元の植物と人のつながりを訪ね、日本人らしい生き方や感性を探求。講演、執筆、ものづくり、フィールド案内、実践ワークショップ、地域創生プログラムなど幅広く携わっている。著書に『和ハーブのある暮らし』(エクスナレッジ)など。