ほっと一息
2024.10.17
みんなのSDGs 田んぼソムリエになろう
JA広報通信2024年10月号
田んぼソムリエ●林 鷹央
『稲上げ唄』は誰の気持ちを歌ったのか?
皆さんの故郷にはどんな民謡がありますか? 私が田んぼに関する民謡を調べていたときに、宮城県の『稲上げ唄』という、誰の視点か分からない不思議な歌詞と寂しげなメロディーが印象的な民謡に出合いました。1番の歌詞を紹介します。
♫今夜ここに寝て 明日の晩はどこよ? 明日は田の中 あぜ枕……ザラントショー※♫
宮城県の農家は稲刈りの晩に田んぼで寝る風習でもあったのだろうか?と、シュールな光景を思い浮かべました。ある日、田んぼの国際的会合で『稲上げ唄』を歌ったときに、ある理事長から衝撃の事実を聞かされます。「林さん、その民謡はイナゴが見てる風景を歌ってるんですって!」と。
2番の歌詞では、田んぼで稲にしがみついて暮らすイナゴが、稲刈りで行き場を失った日の晩、あぜの方に行って隠れて眠ります。
♫あぜを枕に 夜露と寝れば 月は照る照る 夜明けまで……ザラントショー♫
月の光に照らされ夜露が輝く幻想的な風景に包まれて、寒い夜明けを迎える。おそらく天に召されるのでしょう。昔は稲刈りが10月の所が多く夜明けは冷え込みます。稲を刈りながら、そこに住む生きものたちはどうしているのだろうか? そんな他者を思いやる気持ちが、イナゴ目線の唄になったのでしょう。
※稲束を馬に乗せ運ぶ際に、その揺れる音を擬音にしたと思われます。
稲刈りの日は稲とのお別れの日
稲にしがみついているイナゴ
田んぼソムリエ
林 鷹央(はやし たかお)
三重県生まれ、東京育ち。「田んぼの生きもの調査」を通して全国の農村・学校で生物多様性や農・里山文化の意義を伝える。著書に『田んぼソムリエになる!』(安心農業株式会社刊)がある。