ほっと一息

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2026.10.27

ファクトで読み解く農業

JA広報通信2026年10月号

東京大学大学院 特任教授・名誉教授●鈴木宣弘

 

命を守る視点 国家観なき歳出削減

 

 ①農業予算が多過ぎる、②飼料用米補助をやめよ、③低米価に耐えられる構造転換、④備蓄米を減らせ、 ⑤食料自給率を重視するな――。これが財政当局の示す農業予算に対する考え方である。
 1970年の段階で1兆円近くあり、防衛予算の2倍近くだった農水予算は、50年以上たった今も2兆円ほどで、国家予算比で12%近くから2%弱までに減らされてきた。10兆円規模に膨れ上がった防衛予算との格差は大きい。
 軍事・食料・エネルギーが国家存立の3本柱ともいわれるが、中でも一番命に直結する安全保障(国防)の要は食料・農業だ。その予算が減らされ続け、かつ、世界的食料争奪戦の激化と国内農業の疲弊の深刻化の下で、まだ高水準だという認識は国家戦略の欠如だ。
 海外からの穀物輸入も不安視される中、水田を水田として維持して飼料用米も増産することが安全保障上も不可欠との方針で進めてきた飼料用米助成は、まさに国家戦略のはずだ。それを、2階に上げてはしごを外すように、金額が増えてきたから終了というだけの論理は破綻している。
 また、規模拡大とコスト削減は必要だが、日本の土地条件では限界があることを無視した議論は空論だ。日本にも100ヘクタールの稲作経営もあるが、水田が100カ所以上に分散し、規模拡大してもコストが下がらなくなる(稲作も20ヘクタール以上になると60キロ当たり生産費が上昇し始める)。
 中国は14億人の人口が1年半食べられるだけの食料備蓄に乗り出している。世界情勢悪化の中、1・5カ月分程度の米備蓄で、不測の事態に子どもたちの命を守れるわけがない。今こそ総力を挙げて増産し備蓄も増やすのが不可欠なときに備蓄を減らせという話がなぜ出てくるのか。
 「いつでもお金を出せば安く輸入できる」時代が終わった今こそ、国民の食料は国内で賄う「国消国産」、食料自給率の向上が不可欠だ。食料自給率向上に予算をかけるのは非効率だ、輸入すればよい、という論理は、現状認識力と国民の命を守る視点の欠如というほかない。
※日本農業新聞 2024年11月26日付「今よみ」を一部改編

 

 

 

東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授・名誉教授
鈴木 宣弘(すずき のぶひろ)
1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。近著に『いま知りたい お米と農家の話』(農文協)、『もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』(+α新書)、『令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?』(文春新書)などがある。