ほっと一息

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2026.09.17

ファクトで読み解く農業

JA広報通信2026年9月号

東京大学大学院 特任教授・名誉教授●鈴木宣弘

農業政策に違和感 強化すべきは国内生産

 

 国際情勢が緊迫すると輸入途絶リスクが一段と高まり、「国民が必要とし消費する食料はできるだけ国内で生産すること」(国消国産)が今こそ重要になっている。
 にもかかわらず、コスト高で疲弊が強まる農村現場を支え、早急に食料自給率を高める政策は提示されないまま、輸入先国との関係強化と海外農業生産への投資に努めることが提示されている。
 一方、有事になったら慌てて「花から芋へ」に象徴されるようなカロリーを生みやすい作物へと生産転換を促す対策がとられている。今国内生産を支えずして、有事だけ増産させるといっても無理だ。そんなことをする前に、普段から食料自給率を高めておけば済む話だ。
 中国は今、有事に備えて14億人の人口が1年半食べられるだけの食料備蓄をすると、国内生産強化に加えて世界中から買い占め始めた。かたや日本の備蓄は米を中心にせいぜい1・5カ月分しかない。
 日本農業には潜在生産力はある。
 米は今、800万トンくらいしか作っていないが、日本の水田をフル活用すれば1200万トン以上作れる。500万トンを1俵(60キロ)1・2万円で備蓄に買い入れても1兆円だ。なのに、水田を「つぶす」(畑地化支援)のに750億円の補正予算を付けた。施策の方向性が違う。
 そして、「規模拡大によるコストダウン、輸出拡大、スマート農業」が連呼される現状に違和感を覚える。それらは現状の危機への対策になり得るか。
 輸出の前に脆弱(ぜいじゃく)化する国内供給をどうするかが先だ。仮に、輸出が伸ばせても農家の手取りが増えてはいない。多くは輸出に関わる企業の利益である。
 スマート農業の普及促進策も、関連企業への税制や金利の優遇で、企業支援の要素が強い。さらに、これまで半分未満でないと認めなかった農業法人の農外資本比率を3分の2未満に引き上げて、農外資本の農業参入を緩和する。誰の利益か。
 コスト高に苦しむ農家の所得を支える抜本的仕組みが提案されれば農家は生き返る。それが先ではないか。

※日本農業新聞 2024年3月12日付「今よみ」を一部改編

 

 

 

東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授・名誉教授
鈴木 宣弘(すずき のぶひろ)
1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。近著に『いま知りたい お米と農家の話』(農文協)、『もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』(+α新書)、『令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?』(文春新書)などがある。