ほっと一息

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2026.04.24

ファクトで読み解く農業

JA広報通信2026年4月号

東京大学大学院 特任教授・名誉教授●鈴木宣弘

 

農協悪玉論のリスク 「改革」より実態検証を

 米価高騰を巡る「農協悪玉論」が再び「農協改革」につながりかねない様相だ。実態からよく検証してみる必要がある。
 まず、米価高騰は農協がつり上げたからだという指摘がある。残念ながら農協につり上げる力はない。米が集まらなくなって困っているのが現状だ。米不足が深刻化して農家に直接買いにくる業者が増えて、農協よりも高値を提示して買っていく。農協は買い負けている。
 これまで農協が減反に協力して高米価を維持してきたではないか、とも言われる。今回の米価高騰の直前は30年前の米価の半値以下の1万円前後にまで下がっていた。高米価を維持してきた実態はない。
 食糧管理制度の下、政府が米を全量買い上げていた時代は、農協が全量を集荷していた。流通が自由化されていくにつれて小売りを中心とした取引交渉力に押されて米価が下がっていった。
 農協の共同販売は農家がまとまって強力な買い手と対等な取引交渉力を発揮できるようにする大切な機能で、中間マージンを削減して、農家にはより高く、消費者にはより安く届ける効果があることは筆者の計量モデルでも検証されている(「協同組合と農業経済」)。集荷率の低下はその機能をそいできた。
 農協には政治力があり、与党と農水省と結託しているではないか、とも言われる。以前は政治力があったかもしれないが、環太平洋連携協定(TPP)に猛反対して与党から逆襲され、JA全中の権限がそがれてしまった。
 以前は、農林族・全中・農水省がトライアングルと呼ばれ、農政を決定していたが、その力は弱まった。小選挙区制で農業に強い議員も減り、全中も力をそがれ、農水省も財務省と経産省に対する以前のような「拮抗(きっこう)力」を失っている。
 そして、「農協改革」の本丸は、①農林中央金庫の貯金100兆円とJA共済連の共済の55兆円の運用資金を外資に差し出し ②日本の農産物流通の要のJA全農をグローバル穀物商社に差し出し ③独占禁止法の「違法」適用で農協の共販と共同購入をつぶす――ことだ。売国に歯止めをかけねばならない。

※日本農業新聞 2025年5月27日付「今よみ」を一部改変

鈴木宣弘(すずき のぶひろ)
東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授・名誉教授。1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。近著に『もうコメは食えなくなるのか 国難を乗り切るのにほんとうに大切なものとは』(+α新書)、『令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?』(文春新書)などがある。