ほっと一息

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2025.10.29

野菜もの知り百科 ニラ(ヒガンバナ科ネギ属)

JA広報通信2025年11月号

土壌医●藤巻久志

 

 自然に恵まれた日本には植物の名前が入った地名や名字が多くあり、筆者の名字にも「藤」が入っています。しかし野菜の名前が入っている例は極めて少なく、思い付くのは山梨県韮崎(にらさき)市で、同市には韮高と呼ばれる山梨県立韮崎高等学校があります。韮高は文武両道で、ノーベル生理学・医学賞受賞者の大村智さんや元サッカー日本代表の中田英寿さんなど数多くの優秀な人材を輩出しています。ニラには文武両道とは正反対の懶人草(らいじんそう)という別名があります。懶人とは怠け者のことです。

 ニラは生命力が強く、一度植えておけば何度でも収穫できるので、怠け者でも育てられる懶人草という不名誉な名前が付きました。食糧難の第2次世界大戦中は簡単に栽培できることからサツマイモやカボチャと同様に家庭での栽培が増えました。

 陽起草(陽気草)やピンタチ草ともいい、アリシンを多く含み、ギョーザやニラレバ炒めなどスタミナ料理に利用されます。アリシンは食欲増進や疲労回復などの効果がありますが、臭いは翌日まで残ることがあります。アリシンを多く含むニラやニンニクは平日ではなく週末によく売れるので、ウイークエンドベジタブルとも呼ばれます。

 初秋に花茎を伸ばして白いかれんな花を咲かせます。若い花茎はハナニラといい、シャキシャキとした食感で甘さがあり美味です。

 ハナニラには同名の観賞用の球根植物があります。イフェイオンともいい、ヒガンバナ科ハナニラ属の園芸植物で食べることはできません。また、ニラと間違ってスイセン(ヒガンバナ科スイセン属)を食べてしまう食中毒事故が毎年のように起きています。名前や草姿が似ているからといって、よく確認しないで食べることは大変危険です。

 地球上に存在する植物で食用になるのは非常にまれです。野菜は、私たちの先祖が残してくれた奇跡の植物なのです。

 

 

藤巻 久志(ふじまき ひさし)

野菜研究家、土壌医。種苗会社に勤務したキャリアを生かし、土作りに関して幅広くアドバイスを行う。