ほっと一息

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2025.11.03

なくそう食品ロス 江戸時代の食品ロス対策料理・葱鮪鍋

JA広報通信2025年11月号

食品ロス問題ジャーナリスト●井出留美

 

 東日本大震災が起きた3月11日は私の誕生日でした。

 食料支援に行った際、被災地でも食料廃棄が起きているのに衝撃を受け、14年間勤めた食品会社を辞めて独立しました。

 その後、フードバンクの広報責任者を務めていた折、テレビ局からネギ料理の特集番組に出演してほしいと言われ、女性アナウンサーと訪問したのがネギ料理専門店でした。

 店のメニューには葱(ねぎ)と鮪(まぐろ)が主役の葱鮪(ねぎま)串や一本ネギのつくね巻きあぶり、ネギの唐揚げ、ネギのチヂミなどネギ尽くし。脇役と思っていたネギが料理の主役になり得ることに驚きました。ネギが多く出回る頃になると、当時を思い出します。

 また、マグロは脂が多くてすぐに傷みやすいため、まだ冷蔵・冷凍設備が整っていない江戸時代には人気がなかったようです。

 そんなマグロの傷みを防ぐために考案されたのがしょうゆ漬けでした。でも、使われたのはマグロの赤身だけで、脂の多いトロや中トロなどは、畑の肥料にされていたそうです。今では高価なトロが当時は食べられていなかったとは驚きですね。

 その後、食品ロス対策として考案されたのが葱鮪鍋です。脂が多く傷みやすいマグロも、火を通すことで血合い肉や筋の部分もおいしく食べられるようになり、庶民に人気の一品となったそうです。

 葱鮪鍋の作り方を簡単にご紹介しましょう。ネギとマグロはそれぞれ2cmほどのぶつ切りにします。土鍋にだし、しょうゆ、酒を入れて沸騰させ、煮立ったらネギとマグロを入れ、火が通ったら出来上がりです。先にネギを焼いてから煮てもおいしいですよ。

 江戸時代に考案された食品ロス対策料理を、皆さんもぜひ楽しんでみてください。

 

 

食品ロス問題ジャーナリスト 井出 留美(いで るみ)

株式会社office3.11代表取締役。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。『食べものが足りない!』『SDGs時代の食べ方』『捨てないパン屋の挑戦』など著書多数。