ほっと一息
2025.06.12
田んぼの役割を学ぼう
JA広報通信2025年6月号
●監修:林鷹央
●イラスト:小林裕美子
お米を作るだけじゃない!?田んぼの役割を学ぼう
田んぼは稲を育てるだけではなく、
人や環境、さまざまな生き物に対しても役立っています。
どのような働きをしているのか学んでみましょう。
田んぼにはどんな役割があるの?
稲を育てる
田んぼの役割はいろいろあります。一番大切なのはお米を収穫するために稲を育てることです。農作物は同じ場所で同じ作物を繰り返し栽培すると、生育が悪くなったり枯れたりする連作障害が起こりやすくなりますが、田んぼではそれがありません。米は安定的に食べることができる優秀な農作物なのです。
周囲の気温を調節する
田んぼは気温を調節してくれる機能もあります。夏に地面に水をまくと、水が蒸発するときにひんやり涼しくなりますね。水をためた田んぼも周囲を冷やしてくれるのです。アスファルトやコンクリートで地面が覆われた都会から田園地帯に来ると違いを体感できます。
地下水源を守る
田んぼは地下水源を守るのにも役立っています。山や田んぼからゆっくりと浸透した地下水を蓄えているのです。
生態系を守る
田んぼには多様な水生生物が共生しています。特にカエルは水田の稲作サイクルに合わせて成長します。また周辺は、ヨモギやカキドオシ、ノビルなどの山野草が生え、イナゴやドジョウなどがいて、われわれの食べ物になってくれます。
田んぼに流れ込んだ水は日光で温まり、プランクトンを育み、ヤゴや水生昆虫、小魚の餌になります。田んぼで育ったユスリカやトンボを小鳥が食べ、カエルはヘビに、小鳥やヘビはタカやフクロウに捕食されます。このように田んぼから命がつながっているのです。
植物の呼吸には人を癒やす効果があります。最近になり、田んぼの稲や周辺の草花の朝露にはマイナスイオンによるリラックス効果もあるともいわれています。
洪水などの水害を緩和
台風や大雨などで川の氾濫が起こっても、河川と民家の間にある田んぼが遊水池となり、水害の広がりを抑制してくれます。川の氾濫により土地が肥沃(ひよく)となるため、太古より川の近くには人々は住み、農業が営まれてきました。
稲作と文化
稲わらは納豆や草鞋(靴)、正月飾りなどに使われていました。稲のこうじは酒やみそを造るのに使われ発酵文化を支えてくれています。稲作は日本の文化風習に多岐にわたって影響を与えているのです。
水を循環させる田んぼ
海上で雲ができる
①雲が山にぶつかり雨が降る
②雨水が森に蓄えられ、泉が湧く
③川となって流れる
④水を田んぼに引く
⑤ゆっくりと浸透した地下水も
蓄えられていく
⑥ため池に蓄えた水が
田んぼに使われる場合も
⑦田んぼから水路へ流す水を頼りに、
魚が産卵にやって来ることも
⑧田んぼから出た水が川へ流れる
⑨水が海へと注がれる
ぜ〜んぶつながっている!?
田んぼのまわりにある自然や風景を観察してみよう
山地
天然林
落葉広葉樹林(ブナなど)、照葉樹林が田んぼにも流れるきれいな湧き水を育みます。山桜やフジの花、マタタビの葉(白っぽい)などは遠くからでも色が違うので分かります。
冬になると落ち葉が散った山は稜線が墨で描かれた絵のような美しさがあります。近年は拡大造林で山の上までスギ・ヒノキが植えられ、冬でも濃い緑のままの山が多々見られます。
人工林(左)と天然林(右)
平地
平坦地の水田
日照時間が長く大型機械を入れやすいため、お米の生産効率が高いです。
民家の生垣
サザンカなどの花はメジロやスズメなど小鳥の隠れ家になり、受粉や田畑の虫を間引く役割があります。また庭木で小鳥たちが休むことができます。
田んぼの生きものを狙うノスリ
田んぼでの生きもの調査と屋敷林
中山間地
里山林(二次林・雑木林)
薪炭材、シイタケなどが採れ、里と山林の緩衝地帯にもなっています。
里山での農林業が盛んで人の往来が多いと、鹿やイノシシ、猿などが山から降りてきにくく、獣害も減ります。反対に過疎化などによって耕作放棄地が増えて田畑がやぶになってしまったり、二次林の管理ができなくなると動物たちが里に現れ、獣害が起きる原因となってしまいます。
棚田、谷津田
段々になった棚田、森林に囲まれた谷間にある谷津田など、地形に沿った形の田んぼです。畦や斜面の割合が多く、たくさんの種類の草や木を育み小動物たちの蜜源や隠れ場所になります。
畦の草花や木
地面を縛って土壌流出を食い止めたり、田んぼに入れ過ぎた肥料分が川の水を汚すのを防ぐ役割もあります。
棚田と畦と畦畔木
地面を這うように茎を伸ばし
畦を縛るオオジシバリ