ほっと一息
2025.04.02
野菜もの知り百科
JA広報通信2025年4月号
土壌医●藤巻久志
ソラマメ(マメ科ソラマメ属)
ソラマメはさやが空を向いて付くから「空豆」、さやが蚕に似ているから「蚕豆」と書きます。蚕が繭を作る頃においしくなるから「蚕豆」という説もあります。「五月豆」や「夏豆」ともいいます。
大相撲夏場所のお茶屋ではソラマメが欠かせません。国技館が東京・蔵前にあった頃(1954〜85年)は、神田青果市場の競り値は千葉県産のソラマメが初日に天井を付け、千秋楽に向かって徐々に下がっていきました。平成時代になると鹿児島県産が年内から出回るようになり、価格も乱高下することは少なくなりました。
豆は空気に触れると一気に鮮度が落ちるので、さやごと店頭に並ぶのが一般的です。昭和時代は近郊野菜で、産地も消費地も限られていました。コールドチェーン(低温流通)の発展とともに宮城県や秋田県に夏出荷する「終わり初物」の産地ができ、全国で食べられるようになりました。
多く栽培されてきた品種は「河内一寸」や「陵西一寸」などの一寸ソラマメです。取引における計量に「一寸」などの尺貫法は使用できませんが、品種名も野菜も日本の大切な文化です。「文化」の英語「カルチャー」はもともと「耕す」という意味で、アグリカルチャー(農業)はアグリ(畑)とカルチャー(耕す)が由来となっています。
「お多福」はやや小粒の一寸ソラマメで、「お多福豆」として煮豆や甘納豆に用いられています。未熟のソラマメは野菜(園芸作物)ですが、完熟したものは食用作物に分類されます。中華料理に使う豆板醤(とうばんじゃん)は、完熟ソラマメを塩漬けにして発酵させたものです。
ソラマメの紫と白の複色の花は、スイートピーに似てかれんで美しいです。野菜の花は子孫=種を残すために咲き、受粉すると枯れます。ソラマメの花は黒く枯れても、その中から鮮やかな緑色のさやが出てきます。生命の連鎖に感動します。
藤巻 久志(ふじまき ひさし)
野菜研究家、土壌医。種苗会社に勤務したキャリアを生かし、土作りに関して幅広くアドバイスを行う。