ほっと一息
2025.02.06
野菜もの知り百科
JA広報通信2025号2月号
土壌医●藤巻久志
クレソン(アブラナ科オランダガラシ属)
一般庶民がナイフとフォークで食事をすることが少なかった時代、ビーフステーキの付け合わせといえばクレソンでした。クレソンは欧州原産で、日本へは明治時代初期に渡来しました。帝国ホテルやホテルニューグランドが外国人向けに使用したのが先駆けです。昭和初期にビフテキの銀座スエヒロが開店すると、クレソンの消費が急に伸び出しました。
平成になると手頃な価格でステーキを提供する店が増え、付け合わせもクレソン以外にニンジン、ジャガイモ、ブロッコリー、ホウレンソウ、インゲンなどが使われるようになりました。激安店では、野菜は一年中入手できる冷凍品が多いです。
ワサビやマスタードなどと同じシニグリンという配糖体を含み、殺菌・解毒作用があるとされます。独特の爽やかな辛みが肉のしつこさを和らげ、食欲を増進させます。辛みのあることから和名をミズガラシやオランダガラシといいます。
クレソンはフランス語で、英語ではウオータークレスといいます。ウオータークレスやミズガラシの名前のように水生植物です。種子繁殖もできますが、栽培の多くは栄養繁殖で行われています。茎を水に漬けるとすぐに発根するほど繁殖力が強く、野生化したクレソンが全国各地のきれいな水辺や湿地で見られます。初夏にかわいい白色のアブラナ科独特の十字花を咲かせます。
サラダ、おひたし、あえ物、炒め物、天ぷらなどにも利用できます。ベータカロテン、ビタミン類、ミネラル類などを豊富に含み、がんや老化の予防効果が期待されています。
搾り汁は血行促進や皮膚細胞活性化の効果もあるので、アルコールで薄めて頭皮に塗ってマッサージすると発毛促進効果があるともいわれます。クレソン入りの発毛剤やシャンプーも販売されています。しかし、筆者の完全にはげ上がってしまった頭にはもう手遅れでしょう。
藤巻 久志(ふじまき ひさし)
野菜研究家、土壌医。種苗会社に勤務したキャリアを生かし、土作りに関して幅広くアドバイスを行う。