ほっと一息
2025.01.20
身近な草木 和ハーブ入門
JA広報通信2025年1月号
植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴
ミツマタ お札の材料になる和ハーブ
日本における紙のルーツは諸説ありますが、およそ1500年前、仏教伝来とともに大陸より伝わった麻の繊維を原料とした「麻紙(まし)」と呼ばれるものが有力で、仏教の教えを書き写すことが主な目的でした。その後、紙は記録や伝達に使われ、日本の風土に合わせて素材を変化させながら、大衆文化の中で技術が磨かれてきました。2014年、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和紙:日本の手漉(てすき)和紙技術」は、コウゾ(楮)という和ハーブのみで作られるものが対象ですが、和紙原料になるものは他にもあります。
その一つであるミツマタは中国・ヒマラヤ辺りを原産とする落葉樹です。江戸時代に入る少し前に日本に持ち込まれ、各地で栽培されてきました。今でも案外身近な街路樹や庭園に植えられています。
漢字で「三椏(三叉)」と書く通り、3本ずつ分枝しているのが見分けるポイントです。特にまだ外の風が冷たい2月下旬から3月ごろにかけて、葉を付ける前に明るい黄色の花を咲かせます。俳句でも「三椏の花」は春の季語です。枝先にぽんぽんと付く花々が、新しい季節の訪れを軽やかに教えてくれるようです。
このミツマタの樹皮から採れる繊維は、強くてつやもあることから上質な和紙原料になります。そしてなんと、日本銀行が発行するお札の材料でもあるそうです。どうりで、お札をポケットに入れたままうっかり洗濯しても、ぼろぼろにならないわけですね。
昨今、パソコンやスマートフォンが暮らしに浸透し、ボタン一つで手軽にメッセージを送り合えるようになりました。「なかなか手紙を書かなくなった」という声もよく聞きます。今こそ好きな和紙を選んで、大切な人に直筆で思いをつづり、届けてみませんか。
満開の花が日だまりに映える
植物民俗研究家/一般社団法人和ハーブ協会副理事長
平川 美鶴 (ひらかわ みつる)
8月2日“ハーブの日”生まれ。全国各地の足元の植物と人のつながりを訪ね、日本人らしい生き方や感性を探求。講演、執筆、ものづくり、フィールド案内、実践ワークショップ、地域創生プログラムなど幅広く携わっている。著書に『和ハーブのある暮らし』(エクスナレッジ)など。