ほっと一息

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2025.01.03

野菜もの知り百科

JA広報津須伸2025年1月号

土壌医●藤巻久志

ニンジン(セリ科ニンジン属)

 ニンジンやパセリなどの種は、セリ科独特の強い香りがします。この香りを嗅ぐと昭和30年代の薄暗い種苗店にタイムスリップします。当時の種苗店は量り売りで、顧客の目の前の升で量る種が信用できると考えられていました。少し山盛りにしてもらい、買う人は得した気持ちになりました。袋詰めの種はよろず屋(雑貨屋)の委託販売で、一段低く見られていました。

 

 ニンジンはアフガニスタン原産で、東西に伝わり東洋系と西洋系になりました。日本にはシルクロードを経て、江戸時代初期に長根種の東洋系が渡来しました。団塊の世代が小学校の図工の時間に描いたニンジンはゴボウのように細長いものでした。長根種はニンジン臭さがあり、子どもが大嫌いな野菜の一つでした。掘り上げも流通も大変なため、昭和40年代には「金港四寸」や「黒田五寸」などの短根種の西洋系が主流となりました。

 

 四寸は約12cm、五寸は約15cmで、根長を意味します。農業では今でも尺貫法が多く使われています。作付面積も10aや1000平方mよりも1反や1町の方が分かりやすいです。ビニールハウスを建てるときも間口3間、奥行10間の30坪などといいます。
 最近は、子どもも健康志向の大人もニンジンジュースを喜んで飲むようになりました。ベータカロテンが豊富で甘く、癖が少ない短根種の品種改良が進んだからです。
 ベータカロテンの「カロテン」は英語の「キャロット」からきていて、がんや動脈硬化などを予防する効果があるといわれています。油に溶けやすく、炒め物など油で調理すると吸収が良くなります。ベータカロテンは表皮のすぐ下に最も多く含まれているので、できるだけ皮はむかないようにします。

 

 ニンジンは料理に赤色を添え、食欲を増進させてくれる欠かせない野菜です。徳島県、千葉県、北海道など、収穫時期の違う産地リレーによって周年供給されています。

 

 

藤巻 久志(ふじまき ひさし)
野菜研究家、土壌医。種苗会社に勤務したキャリアを生かし、土作りに関して幅広くアドバイスを行う。