ほっと一息

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2024.11.06

なくそう食品ロス 卵

JA広報通信2024年11月号

食品ロス問題ジャーナリスト●井出留美

なくそう食品ロス    卵

 

 お歳暮の季節が近づいてきました。最近では若い方に「オセイボって何ですか」と聞かれた話も耳にしました。
 ところでお歳暮に卵が使われたことがあるって知っていましたか?
 拙著『食料危機 パンデミック、バッタ、食品ロス』(PHP新書)を執筆中に『近代日本食文化年表』(小菅桂子、雄山閣)で昔の食文化を調べました。すると、1901(明治34)年12月5日付の新聞『時事新報』で、鶏卵がお歳暮として高値が付けられたと報じられていたことが分かったのです。
 『時事新報』は、福沢諭吉が1882(明治15)年に創刊した新聞です。冷蔵庫のない当時、冬場の卵は日持ちが良いのでお歳暮として重宝されており、年末近くには、卵の相場は高値になったとのこと。
 前に養鶏農家を取材した際、以前は卵を常温に置いても何の問題もなかったと話していました。そこで試しに卵を常温で1年間置いてみたことがあります。1年後、一般生菌数や大腸菌群数、サルモネラ菌を調べてもらったところ、菌は検出されませんでした。大学の先生に伺うと「それは、たまたま、いい卵に当たっただけ」とのこと。中は水分が蒸発し、カラカラに乾いていましたが、すぐ腐ると思っていたので、卵の殻が中身を守る力に驚きました。
 昔と違い、今は気候変動の影響で気温が高く、冷蔵することが多くなりました。殻にはサルモネラ菌が付いている恐れがあるので、パックのまま、揺れない場所(冷蔵庫の奥)に置くと良いです。すき焼きのときなどは、食べる容器に殻ごと入れがちですが、別の容器に入れることをお勧めします。
 『時事新報』を創刊した福沢諭吉は卵が嫌いだったとのこと。でも卵は「完全栄養食品」といわれるほど優れた食品です。
 鶏は24時間以上かけて1個の卵を産みます。鶏の命と生産者の尽力に感謝して、適正価格で購入し、大切にいただきましょう。

 

 

食品ロス問題ジャーナリスト
井出 留美(いで るみ)
株式会社office3.11代表取締役。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。『食べものが足りない!』『SDGs時代の食べ方』『捨てないパン屋の挑戦』など著書多数。