ほっと一息

ほっと一息

2024.04.24

おしゃれ上手でシンプルライフ 若手工芸作家から学ぶこと

JA広報通信2007年4月号 

ファッション・エッセイスト●フランソワーズ・モレシャン

 

 「息子に継いでもらうほどの需要がありませんから…」。日本の伝統工芸の担い手の方々が、そう言ってため息を漏らします。大量生産で漆はプラスチックに代わり、きりの火鉢は現代の生活では使われなくなりました。後継者を育てる以前に、伝統工芸では職人が食べていけなくなって、日本の素晴らしい匠(たくみ)の技が歴史から消えていってしまいます。

 そんな大変な時代の中、あえて伝統工芸にチャレンジする金沢の若手作家たちにテレビの取材で会いました。彼らの柔軟な物の考え方と才能にびっくり。伝統をそのまま踏襲する職人ではなく、どちらかというと現代アートの芸術家です。九谷焼の技法と色合いを使って、デザインは現代の遊び心。漆は大きな動物のオブジェに! きり工芸ではきりの「木の座布団」に!

 とにかく用途とか道具にこだわらない自由な発想で、伝統工芸がもたらす質感をアートに生かしているのです。彼らの一人はこう言います。  「売れるかどうかは、分かりませんが、とにかく素材の素晴らしさを知ってもらいたいのです。アートとして親しんでもらえれば、きっと道具としても持ちたくなるのではないでしょうか」

 質よりも量と低価格を重視する消費社会になって、まじめな物作りをする人はどんどん社会の端っこに追いやられてしまいます。

 でも、一方では環境や健康問題に関心が高まり、量や値段よりも質を求める時代が来ていることも確か。工芸だけでなく、きっと農業も…。伝統にこだわりながら、自由に発想する若い人たちに期待しています。