ほっと一息

ほっと一息

2024.04.21

ふるさと見てある記 馬を頭に乗せた石仏

JA広報通信2007年4月号 

●とよた 時

 

 村の辻や農道の脇で、馬の顔を頭につけた石仏を見掛けたことはありませんか。馬頭観音の石塔です。「馬頭観音」と文字だけのものもあります。馬頭観音は馬頭観世音の略で、六観音の一つであり、また八大明王の一つです。

 馬頭観音像には人身馬頭の形や馬頭冠の憤怒の形相のもの、また人の形の頭上に馬頭を載せたものがありますが、道端で目にする石仏の多くは、頭上に馬の顔を彫った形です。

 かつて、水田の耕作や作物の運搬などは馬が頼りでした。農家は住まいと一緒にうまやを建て、同じ屋根の下で共に寝起きするなど、まるで家族同様の扱いをしていました。また、馬がいるかいないかで農家の裕福さが分かったといいます。

 馬頭観音の大多数は、この大事にしていた馬を供養するためのもの。多くは村外れの辻や交通の難所である峠や山道に建っています。

 この信仰が日本に伝わったのは平安時代といいます。大分県には平安時代の五尊磨崖仏の中に馬頭観音が見られ、また奈良市には室町時代の仏頭石六観音にもあります。

 しかし、独尊として石碑が建てられ始めたのは江戸時代中期以降から。庶民の信仰として、特に農村に根づき、次々に供養塔が建てられるようになっていきました。今でも真新しい石塔が見られます。

 馬と並んで人間の役に立った牛を供養する牛頭観音もあります。長野県川上村には馬頭尊のそばに牛頭観音があり、昭和51年の銘があります。千葉県南房総市にも牛頭観音があります。

 ついでながら、東京都清瀬市や神奈川県三浦市諸磯の光心寺には豚頭観音があり、三浦市の松輪には鶏頭観音というのもあるそうです。