ほっと一息
2024.03.07
みんなのSDGs 田んぼソムリエになろう 百姓仕事が育む日本の心
JA広報通信2024年2月号
田んぼソムリエ●林 鷹央
日本の動物・植物などの絶滅危惧種の約50%は、田んぼを中心とした里山の生きものだといわれています。かつては当たり前に見ることができたキキョウやカタクリなどの花、メダカやゲンゴロウなどの愛嬌(あいきょう)のある小動物たち。若者はそれらを野生で見たことがない人がほとんどでしょう。
野生といっても里山は人が草刈りをしたり、まきを集めたりして整備された二次的自然です。田んぼ・里山ではいつも人が仕事をしているので、ヨシや竹、ササなどの強い植物がやぶを作って日光を遮ることもなく、イノシシや鹿などの大きな動物も田畑を荒らしに来にくい環境がありました。
百姓仕事で整備された里山は、強過ぎる草や動物から、カタクリをはじめ多くの草花や、小魚や水生昆虫、トンボやカエルを守り、彼らが暮らせる里山生態系という風景ができました。日本人の心と食と文化を育んできた持続可能な循環です。
しかし1960年代以降、東京オリンピックを経て日本が急速に経済成長していく中で、都市部に人口が集中し、農村部では若者がいなくなり、機械化された農業が効率良く農産物を作っています。しかし、それは「百姓仕事」の十姓くらいしか担っておらず、お金に換算されていない残り九十姓の部分にも気付くことが、日本人の内面を豊かにしてくれるような気がしています。
カタクリの花。咲くまでに発芽から8年ほどかかる。4月上旬の里山にて
田んぼソムリエ 林 鷹央(はやし たかお)
三重県生まれ、東京育ち。「田んぼの生きもの調査」を通して全国の農村・学校で生物多様性や農・里山文化の意義を伝える。著書に『田んぼソムリエになる!』(安心農業株式会社刊)がある。