ほっと一息
2024.02.13
老人介護のミニ知識 道具選びはじっくりと
JA広報通信2011年2月号
高齢生活研究所所長●浜田きよ子
気持ちよく座り、しっかり立てること。これは暮らしの中でとても大切なことです。立つことができれば介助は楽になりますし、本人の足腰にも良い影響を与えます。ところが、いいかげんないす選びが、これらを妨げているようです。
先日訪問した特別養護老人ホームでも、介護士さんからこんな相談がありました。
「Aさんはいすに座っているうちに姿勢が崩れてくるのです。辛そうなので、私たちも気がつけばいい姿勢に戻すのですが、長く続きません。Aさんは半月前まではご自分で立っておられたのですが…」
「半月前と今とで、変わったことはありますか」と尋ねると、
「いすを変えたことくらいです」と介護士さんは言います。
まずAさんの様子をゆっくり観察させていただきました。いすの背もたれがかなり後ろに傾いているため、お尻は前に滑ってしまいます。いすの座面が広いので肘掛けに腕が置けません。そのため自分で姿勢を保持するのが難しそうです。またいすの座面がAさんには低過ぎます。 そこで気づいたことを介護士さんに話して座面がもう少し高くて座幅が狭いもの、肘がしっかり置けるいすを探していただきました。
条件に合ったいすに座り替えていただいたところ、Aさんは半時間たっても姿勢が崩れませんでした。しかも自分で体を前にかがめて、ソックスを直しておられました。
食事の時間になったので、立ってもらおうと介助したところ、肘掛けを持って楽に自分で立ってくださったのです。これには介護士さんも私もびっくりしました。
身体機能が低下した方こそ、日常の道具は丁寧に選ぶ必要があります。それにより互いの生活は大きく変化するのですから。