ほっと一息

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2023.10.26

永山久夫の健康万歳! 「とろろ芋」で若返る

JA広報通信2023年10月号

食文化史研究家・日本の長寿食研究家●永山久夫

 

 山芋(とろろ芋)の元気回復効果は古くから知られていて、平安時代の医術書などには「長く食べていると、目や耳が聡(さと)くなり、体も軽やかになって飢えに対する抵抗力も付き、寿命を延ばす」とあり、長寿食として貴族たちが盛んに食べていました。

 山芋をすりおろし、だし汁やみそ汁などでのばしたのがとろろ汁。これをご飯にたっぷりかけて食べます。

 いやー、うまいこと、うまいこと。

 あっという間に3杯くらいは軽くおなかに収まってしまいます。でも、心配はご無用です。

 少々食べ過ぎてもおなかにもたれないのは、アミラーゼなどの消化酵素が豊富に含まれているため。タンパク質とマンナンという、一種の食物繊維が結合した物で、炭水化物だけではなく、タンパク質の消化も助けてくれます。

 漢方では、乾燥させた物を「山薬(さんやく)」と呼び、精力の減退や疲労回復、不老長寿などに対する妙薬として古くから用いられてきました。江戸時代の『本朝食鑑』にも、「腎気を増す」とあります。衰えかけた精力の回復に役立つという意味です。

 アミラーゼの含有量は大根おろしより多く、このため生で食べると一緒に食べた他の食物の消化も助けることになり、栄養成分が無駄なく吸収されます。

 消化酵素は高熱を加えるとその働きが半減してしまうため、とろろ汁のように生に近い状態で食べるのが良いでしょう。

 井原西鶴の『好色一代男』の主人公である世之介は、60歳になったときに好色丸(よしいろまる)という船を仕立て、静岡県の伊豆から船出して女護島へ向かいます。

 このとき、船にスタミナ強化食を山ほど積み込んでいますが、その中には生卵と共に山芋がたくさん運び入れてありました。島に着いた世之介は島の若い女性たちに歓迎され、とっても長生きしたそうです。

 

食文化史研究家・日本の長寿食研究家 永山 久夫(ながやま ひさお)

1934年福島県生まれ。食文化研究所、綜合長寿食研究所所長。古代から明治時代までの食事復元研究の第一人者。長寿食や健脳食の研究者でもあり、長寿村の食生活を長年にわたり調査している。