ほっと一息

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2023.10.24

『養生訓』に学ぶ 漢方で心の養生

JA広報通信2023年10月号

 

取材協力:薬日本堂
https://www.nihondo.co.jp/
監修:鈴木養平(すずき ようへい)
日本漢方養生学協会理事長、薬剤師。

薬日本堂漢方スクールの講師としてセミナーや講演活動を行う一方で、雑誌・本の監修、企業の商品開発に携わる。

著書に『わがまま養生訓』(フォレスト出版)

イラスト:小林裕美子

 

漢方には、人間本来の健康を体現するための知恵が詰まっています。
「元気で長生き」のためには、精神(メンタル)と血の全身循環の両方の役割を担う「心」の養生が最も大切だとされています。

 

貝原益軒と『養生訓』

 人生50年だった江戸時代、儒学者で本草学(現代の医薬学)の権威でもあった貝原益軒は、85歳まで現役で元気に過ごしました。「どうすれば一生健康で長生きできるのか」について、自身の体験と知識をまとめた『養生訓』は当時の大ベストセラーでした。漢方の考え方にも通じる内容のこの本は、今でも多くの人に読み継がれ実践されています。

 

第1章 食生活で養生 五味を意識して食材を選ぼう

 食事は一つの味に偏ることなく、五味(酸、苦、甘、辛、塩気)をバランス良く少しずつ食べることが大切です。

「苦味」は体内の熱を冷ます

 中でも「苦味」には体内の熱を冷まし、解毒して外に出す働きがあります。発熱やのぼせ、便秘にも有効です。
(代表的な食材/セロリ、ピーマン、緑茶、シュンギク、ギンナンなど)

心の乱れには「赤い食材」

 心には精神や意識のコントロールと、血を全身に送るポンプの役割があります。心が乱れて緊張や不安が強く、落ち着かないときは「赤い食材」で血を補います。
(代表的な食材/ナツメ、クコの実、ニンジン、赤身の肉、レバーなど)

寒い冬には「黒い食材」

 冬は寒さによって腎臓の働きが低下するので、それを補うために「黒い食材」を積極的に取り入れます。
(代表的な食材/黒ゴマ、黒キクラゲ、黒豆、黒米、シイタケ、黒糖、ヒジキなど)
体を内側から温めよう
 スープや鍋物で体を内側から温めるのも効果的です。牛肉、豚肉、鶏肉、エビ、タマネギ、ニラ、カボチャ、クルミといった食材を積極的に取ると良いでしょう。レーズンなどのドライフルーツやナッツ類など、種や実の食べ物も体を潤してくれます。

しっかりよくかんで食べる

 食事をするときはしっかりよくかんで唾液を出すことが大切です。唾液には消化酵素やホルモンが含まれており、消化や味覚を助けるだけでなく、殺菌効果や老化予防の働きもあります。唾液はダイエットにもつながります。アミラーゼという酵素の一つが栄養の吸収、分解、燃焼、排せつなどをスムーズに進める触媒の役目を果たすのですが、よくかむことでその分泌が促進され、糖質(炭水化物)を分解してくれるのです。食事と十分なそしゃくはセットだと考えてください。決して早食いはせず、ひと口30回、しっかりかんで食べましょう。

第2章 日常生活で養生 朝を大切にし、日々の変化を楽しもう

 体は睡眠中にリセットされるため、寝ることも大事な養生です。睡眠の質が良いと自律神経やホルモンバランスが整い、肌の調子も良くなります。睡眠の質を高めるためには、時間に余裕を持って食事をする必要があります。夕食後すぐに寝ると消化に負担がかかります。夜ぐっすり眠るためにも、昼はしっかり活動することが大切です。できるだけ昼寝はしないこと。眠り過ぎると生気がみなぎらなくなるからです。そもそも養生において、睡眠欲は抑えるべき要素の一つです。昼と夜のメリハリをつけて、質の良い睡眠を心がけましょう。そして、起床したらすぐに窓を開けて深呼吸し、一日のエネルギーを蓄えることをお勧めします。
 一方、心の養生には「人生を楽しむ」という行為や感情も挙げられます。これには特別なことは何もありません。本を読み、歌を歌い、香りを楽しみ、自然の景色を眺め、月や花を観賞し、植物を慈しみ、季節の移ろいを味わい、庭で取れた野菜を煮て食す。これらは全て心を楽しませ、養う助けになります。
 私たちの国には、四季折々の楽しみや日々の変化があります。身の周りの小さなことにも興味を持って年を重ねていけば、楽しく長生きできるでしょう。

 

第3章 体を動かして養生 毎日続ければ気が巡り、病の予防にも

 漢方の体操療法に「導引法」というものがあります。導引とは深呼吸とセルフマッサージを組み合わせたもので、気の流れを活発にして健康的な体をつくる働きがあります。ここでは、基本の導引の中から全身・頭・足の動作を紹介しましょう。
 貝原益軒の『養生訓』には、「早朝に起床した後、一方の手で足の五指を握り、もう一方の手で足裏の中心部をしっかりなでさする。こうして足の裏が熱くなれば、両手で足の指を動かす」とも書かれています。
 ここでのポイントは、早朝に行うことにあります。「まだ暗いうちに起きて座ってこのケアをすると、のぼせを下ろし、弱い足を強くし、立ちにくい足も直す。古来からのセルフケア法で、長年続ければ効果が表れる」と、益軒は述べています。
 とかく現代人は首から上(目や耳)が忙しく、その下の体は疲弊しています。『養生訓』の中に足をほぐすケアがいくつか出てくるのは、首から上を刺激する「反射区」というつぼが足先に多く集中しているからです。また益軒は「食後は体を動かすように」と言及し、「静かに200~300歩ほど歩いて、体を動かすように」とあります。食後すぐにパソコンに向かったり、テレビの前に座りっ放しになるのではなく、家の周りを軽くウオーキングするなど、少しでも体を動かすように意識しましょう。

 

頭の体操

1 両手を組む。


2 組んだ両手を左に引き、頭は右に回す。


3 組んだ両手を右に引き、頭は左に回す。


これを3回行う

 

 

 

体の体操

1 起き上がる前に、布団の中で両足をぐーっと伸ばす。


2 深呼吸して、睡眠中に体内にたまった濁った気を吐き出す。


3 起き上がって、布団の上に正座する。


4 両手の指を組み合わせたら裏返して前に突き出し、頭を上に向けて、そのまま頭上に持っていく。

 

足の体操

1 太ももと膝をなで下ろす。


2 手を組んで、足三里のつぼ(膝頭の下)を抱え、足は前方に踏み出すように、手はおなか側に引く。

左右とも何回か行い、最後に左右の手で左右のすねとふくらはぎをなで下ろす。