ほっと一息

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2023.09.25

みんなのSDGs 田んぼソムリエになろう ススキと思ひ草

JA広報通信2023年9月号

田んぼソムリエ●林 鷹央

 

 ススキは誰もが見たことがある身近なイネ科の植物でしょう。私も子どもの頃に鋭い葉で手を切ってしまった痛い記憶があります。秋に美しい金色の穂をなびかせるので、秋の七草にも数えられています。では「尾花、朝顔、女郎花(おみなえし)、萩、葛(くず)、撫子(なでしこ)、藤袴(ふじばかま)」の七草のうち、どれがススキか分かりますか?

 正解は尾花です。穂の形を馬のしっぽに例えて尾花と呼ばれています。収穫を祈る十五夜、中秋の名月に月見団子と一緒に飾られます。花札の月見でも目にしますね。直接食べたりお金になったりするわけではなく、風情が親しまれているところに、日本的な心の豊かさが感じられる植物です。ちなみに鋭い葉は魔よけ、穂は稲穂の代わりという意味もあるそうです。

 そんなススキの風情を楽しんでいるのは、どうやら人間だけではないようです。ススキは稲のように株立ちしますが、株元にナンバンギセルという「思ひ草」が生えてきます。うつむき加減で頰を赤らめたようなピンクの花を、ススキに心を寄せる女性に例えています。実際はススキに寄生する、葉を持たない植物ではありますが……。

 田んぼの脇でススキを見ると、昔の人の目線で風景を味わっている気持ちになれて、田んぼがますます好きになってしまいます。

 

 


田んぼの脇でススキが揺れる

 

 

ススキの株元にいた「思ひ草」ことナンバンギセル

 

 

田んぼソムリエ 林 鷹央(はやし たかお)

三重県生まれ、東京育ち。「田んぼの生きもの調査」を通して全国の農村・学校で生物多様性や農・里山文化の意義を伝える。著書に『田んぼソムリエになる!』(安心農業株式会社刊)がある。