ほっと一息

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2023.08.04

STOP!老人脳 脳寿命を延ばす 健康生活

JA広報通信2023年8月号

西 剛志(にし たけゆき)先生


●脳科学者(工学博士)
●分子生物学者
●T&Rセルフイメージデザイン
 代表取締役

 

いくつになっても前向きで若々しく暮らすには、「脳」の健康を気遣うことも大切です。
老人脳にならないために「脳寿命」を延ばす生活を始めてみませんか。

 

『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』


西 剛志著
アスコム刊 1540円

 

 

もしかしたらあなたも……?老人脳の5タイプ

「記憶脳」の老化

□人の顔や名前が覚えられなくなった
□同じことを何度も言うようになった
□「あれ」「これ」などの指示語が多い

これで予防! 毎日違う道を歩いてみましょう

 GPSを使って生活の中の移動距離と脳の衰えの関係を調べた実験では、「移動すると記憶力がアップする」ということが分かりました。これは新しい場所を覚えようとする脳細胞を使うことで、脳全体が活性化するためです。例えば毎日の買い物でも、違う道を通るようにすると、記憶力の衰えを防ぐことができます。

「やる気脳」の老化

□流行に付いていけなくなった
□昔が懐かしいと思うことが多い
□食べたい物が思い付かない

これで予防! 「新しい体験」を毎日取り入れましょう

 新しいことやワクワクすることがあると脳は活性化します。老人脳を予防するためには、新しい体験を、毎日少しずつ取り入れることが大事です。「歩くスピードを変えてみる」「いつもは見ないテレビ番組を見る」など、ちょっとしたことでOK。ただしストレスも脳を老化させますので、負担にならない程度にとどめましょう。

 

「聴覚脳」の老化

□聞き間違いが増えた
□テレビの音のボリュームが大きいと言われる
□子どもの声など高い音が聞こえにくいことがある

これで予防! 聞こえにくくなったら補聴器を

 認知症の12の危険因子で最も危険度が高いのが難聴だといわれています。音は目が覚めている間ずっと脳を刺激し続けていますが、それがなくなるためです。特に若い頃から大音量で音楽を聴く習慣があったり、音の大きい職場にいた方はご注意を。補聴器は、認知機能の低下を防ぐのにも役立ちます。

「共感脳」の老化

□人の話を聞かなくなった
□服装に気を使わなくなった
□人を傷つけてしまうことが増えた

これで予防! ダンスやお手玉に挑戦

 認知機能を高めるのに最も効果的なのが、リズム、バランス、スピードなど複数の動きを同時にする「コーディネーション運動」です。ユーチューブで動画などを見て動きをまねするのもお勧めです。体を動かすのが苦手な方でしたら、お手玉などでもいいでしょう。

「客観・抑制脳」の老化

□すぐにイライラするようになった
□感情を抑えられないことが多い
□物事を客観視できない

これで予防! 利き手ではない方の手で作業をしてみる

 常にイライラしているなどの自覚がある人は、脳の機能が低下して、感情の抑制や注意力が弱まっているのかも。1日5~10分、利き手ではない手で生活してみましょう。手を動かすことに意識が集中するため、心身をコントロールするいいトレーニングになります。

 

 

手軽に始められる「脳寿命」を延ばす食生活

脳の機能のピークは人によって違う

 「高齢になると脳が老化する」というイメージがありますが、脳の老化現象はもっと早くから始まっています。さまざまな研究機関の調査データをまとめると、脳の機能のピークは「情報処理能力が18歳」「人の名前を覚える力が22歳」「顔を覚える力が32歳」「集中力が43歳」となっています。
 このピークは、人によって振れ幅が大きく、ピークを70代、80代まで持続させる人もいます。ピークを長く保てる人は、脳の衰えを緩やかにしたり、脳を若返らせたりする工夫を日常の中で無意識に行っているのです。特に重要なのが、脳内物質の生成を大きく左右する食生活。以下の工夫を取り入れて、老人脳を予防しましょう。

 

かめばかむほど、脳は若返ります!

 よくかんで食べるだけで、運動機能や健康機能が向上、やる気が出る、記憶力が高まる、認知症を防ぐ、免疫力を高めるなどの効果があります。中でも効果が高いのが「やる気脳」の低下防止。そしゃくするとやる気の源であるドーパミンがよく出るようになるのです。
 準備が簡単だからという理由で朝食をパンにしている人も多いですが、やる気を高めるためにはパンよりかむ回数の多いご飯がお薦めです。硬い物を食べる方がいいということではなく、軟らかい物でもかむ回数を増やせばいいのです。

 

動物性タンパク質が脳の衰えを防ぐ

 100歳を超えても脳機能が衰えない、いわゆる「スーパーエイジャー」の約6割が、牛肉や乳製品などの動物性タンパク質を毎日取っています。牛肉や乳製品などの動物性タンパク質の中には、やる気ホルモンであるドーパミンの原料になるチロシンというアミノ酸や、リラックスホルモンのセロトニンを作り出すアミノ酸(トリプトファン)などが含まれているためです。

 

「プチぜいたく」で脳を活性化

 私たちの脳は制約を受けると活性化しにくくなり、やる気ホルモンのドーパミンが出にくくなります。ですから、自由な人の方が老化しにくいのです。例えば好きな物を食べているときの「おいしい」という感情は、味覚への刺激だけでなく嗅覚や視覚などさまざまな感覚への刺激になります。またおいしいと感じる食品はよく味わって食べるため、自然とかむ回数が増えて、脳を刺激します。

 

野菜だけ&粗食は脳を萎縮させる

 「年を取ったら粗食の方が体にいい」というイメージがありますが、61歳から87歳の人に対して記憶テストや身体機能のチェック、脳のスキャンなどを行ったところ、野菜中心で肉や魚、卵に多く含まれるビタミンBが不足している人は、5年後に脳の萎縮が見られたそうです。野菜ももちろん大切ですが、動物性食品と組み合わせて、バランス良く取るようにしましょう。

老化を防ぐためのお薦め食材

マグロのトロ、サバの水煮缶


 脳細胞を活性化し、老化予防に効果的といわれるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は、青魚の脂肪に多く含まれています。ですから、旬の脂が乗った青魚を食べると効率良く取ることができます。マグロのトロもお薦めです。DHAは1日につき5gの摂取が必要ですが、マグロのトロならすし1貫で3.2g取れるため、2貫食べれば十分です。

 

 

アセロラ飲料


 1日に1gのビタミンCを摂取すると若返り遺伝子が活性化することが分かっています。お薦めは100g中に1700mg(レモンの約34倍)もビタミンCを含んでいるフルーツ、アセロラです。アセロラ入りの飲料なら手軽に取ることができます。

 

 

マイタケ・かつお節


 若返り遺伝子を活性化させるナイアシンを豊富に含んでいます。たっぷりのかつお節でだしを取り、かつお節ごと食べてマイタケを具にしてみてはいかがでしょうか。