ほっと一息
2024.05.25
甘くておいしい 砂糖のハナシ
JA広報通信2024年4月号
砂糖は調理のマルチプレーヤー
おいしさをキープする
お菓子作りや料理をするときに、砂糖は単に甘さを加えるだけでなく、さまざまな役割を担っています。レシピを見て「なぜここで砂糖を使うの?」と疑問に感じたことはありませんか。そこには砂糖の持つ性質、特性を利用した科学的な根拠があるのです。
あんこが日持ちする(防腐効果)
カビや細菌が繁殖するためには水が必要ですが、砂糖を一定量使用すると、食品中の水分を砂糖が抱え込むため、カビなどが繁殖しにくくなります。
クッキーが嫌な臭いになるのを防ぐ(酸化防止)
バターを使用したクッキーなどは、時間がたつと、バターの油と空気中の酸素が結合して嫌な臭いがすることがあります。砂糖を加えると、油の水分が砂糖と結び付くため、酸素と結合しにくくなります。
おいしそうな焼き色を付ける(メイラード反応)
パンやクッキー、カステラなどの焼き色は、小麦粉、牛乳、卵などに含まれるアミノ酸と糖が反応してできます。
肉や魚の生臭さを消す(マスキング効果)
砂糖の持つ強い甘さは食材の生臭さや苦味、酸味といった雑味を和らげ、食べやすくする効果があります。
パンの焼き上がりをふっくらさせる(酵母の活性化)
パンを作るときには酵母を使います。酵母は糖を栄養源にして発酵し、それによって生じる炭酸ガスで生地が膨らみます。小麦粉にも糖質が含まれていますが、砂糖を加えることでさらに発酵しやすくなるのです。
果実酒のフルーツの香りと味を引き出す(浸透圧)
果実酒を作るとき、砂糖を入れると果実の外側の液が濃くなり、果実のエキスが溶け出しやすくなります。結晶の大きな氷砂糖を使うとまろやかに仕上がります。その理由は、氷砂糖は徐々に溶けていくので、先にアルコールが果実に染み込み、その後果実のエキスがゆっくり染み出すためです。
砂糖と水の甘〜い関係
砂糖は塩に比べて水にとても溶けやすいのは、皆さんよくご存じですね。常温で水の質量の約2倍、100度のお湯では5倍近くの砂糖が溶けるのです。水に溶けやすい性質「親水性」は、調理のさまざまな場面で活用されています。
生クリームなどの泡立ちを良くする
砂糖を加えて泡立てると砂糖が水分と結び付いて離れなくなり、しっかりと泡が立って安定します。
ジャムにとろみを付ける
果物や野菜に含まれるペクチンは、水によって軟らかくなります。砂糖はペクチンが水を抱えるのを助け、水が外へ染み出すことを防ぎます。
肉を軟らかくする
ビーフシチューや焼き肉を作るときなどに砂糖をもみ込んでおくと、砂糖が肉の組織に入り込んで水を引き付け、コラーゲンが溶け出しやすくなって軟らかくなります。
すし飯をしっとりさせる
ご飯の主成分であるでんぷんは、水を加えて熱すると軟らかく粘り気のある状態になります。そこに砂糖を加えることで砂糖が水を抱え込み、でんぷんの分子を集まりにくくするため、粘り気のある状態を保つことができます。
卵焼きをフワッと仕上げる
砂糖が卵のタンパク質の水分を抱え込んで、固くなるのを防ぎます。卵の固まる温度が高くなり、緩やかに固まるため、しっかり加熱しても軟らかく仕上がります。
熱を加えて七変化
砂糖は加熱温度によって、シロップ状、あめ状、カラメルとその形状をさまざまに変え、一定温度を超えると冷やしても元に戻らなくなります。これは砂糖の分子のつながり方や組み合わせが加熱によって変化するためです。それぞれの状態をうまく利用することで甘味料としてはもちろん、料理の色付け、風味向上、着色料など多彩に活用されています。
〈砂糖の加熱温度による変化〉
200度
100度
190度 カラメル
165〜180度 カラメルソース
165度 べっこうあめ
140度 タフィー(菓子)
107〜115度 フォンダン(糖衣)
103〜105度 シロップ
砂糖は自然の恵み
砂糖の種類は主に、甘蔗(かんしょ=サトウキビ)由来の甘蔗糖と、テンサイ(ビート)由来のてんさい糖に分けることができます。甘蔗糖もてんさい糖も、精製して不純物を取り除けば、ほとんど同じものになります。
現在、世界で生産される砂糖のうち、70~80%が甘蔗糖で、残りのほとんどがてんさい糖です。製造法の違いにより、精製糖、てんさい糖、黒砂糖、和三盆などさまざまな砂糖が作られています。その他生産量は非常に少ないですが、カナダなどで生産されている、砂糖楓(カエデ)から採れるメープルシュガー、東南アジアで作られる砂糖椰子(ヤシ)から採れるヤシ糖などがあります。
サトウキビ
砂糖のルーツ
砂糖の起源はインドといわれています。砂糖の英語「SUGAR」の語源は、古代インドの言語であるサンスクリット語の「SARCARA」とされています。砂糖に関する記述が、紀元前5世紀ごろのインドの仏典に見られます。日本に砂糖が伝わったのは8世紀、奈良時代とされています。正倉院に保存されている、大仏に献上する薬の目録「種々薬帳」に、砂糖を意味する「蔗糖」が記されていることから、砂糖は薬として扱われていたようです。
砂糖と健康
「疲れたときには甘いものが良い」理由は
砂糖などの糖質は、体内ではグリコーゲンとして筋肉や肝臓に蓄えられていますが、その量は限られています。仕事や運動で疲労し、グリコーゲンがブドウ糖に分解されてエネルギー源として利用されると、貯蔵量が極端に少なくなることがあります。
砂糖を摂取すると、素早く消化吸収されて体内でブドウ糖に変わり、エネルギーになります。従って、筋肉を長時間動かすマラソンや登山には、砂糖を取ることが理にかなっています。
脳にとってブドウ糖は大切なエネルギー源。砂糖はそのエネルギーを手軽に補充できる食品といえます。疲労には精神面も関係していますが、砂糖の甘さは気持ちをゆったりさせるホルモンを分泌させる働きがあるとされています。
砂糖を取ると虫歯になる?
虫歯の原因には、歯の資質、口内に虫歯菌があること、口内に虫歯菌の餌となる食物(砂糖など)があること、虫歯菌が増殖する時間の四つの要素があります。砂糖が虫歯発生の要因の一つであることは確かですが、「砂糖を食べたら虫歯になる」というほど単純なものではありません。歯磨きなど口腔(こうくう)衛生に努めれば、十分に予防できる可能性があります。
また、同じ量の砂糖を摂取した場合でも、けじめなくダラダラ食べると虫歯発生のリスクが高まる、という研究もあります。
さまざまな色・味わいを楽しもう
上白糖
家庭で最も多く使われている砂糖です。結晶が細かく、しっとりソフトな風味で、何にでもよく合います。
グラニュー糖
上白糖より結晶が大きく、純度の高い砂糖です。料理そのものの味を大切にしたいときに使います。
白ざら糖
グラニュー糖より結晶が大きく無色透明で光沢があります。高級菓子やゼリーなどに使われます。
中ざら糖
純度の高い黄褐色の砂糖。独特のまろやかな風味が煮物に最適。おふくろの味を演出。
角砂糖
直方体に固めたグラニュー糖でコーヒーや紅茶に使われます。1個の重量が決まっているため料理やお菓子作りに便利です。
粉砂糖
グラニュー糖を細かく砕いて粉にした砂糖。洋菓子のアイシングやデコレーションなどに使われます。
氷砂糖
氷のように見える大きな結晶の砂糖。ゆっくりと溶けるので果実酒を作るのに使われます。
和三盆
盆の上で砂糖を3度研ぐという日本独自の伝統的な製法で作られた砂糖です。主に和菓子に用いられています。
黒砂糖
サトウキビの搾り汁を煮詰めて作ります。独特の風味で人気があります。
顆粒状糖
高純度の砂糖で多孔質の顆粒(かりゅう)状です。水に溶けやすいことから冷たい飲み物や果物にかけるのに適しています。
三温糖
上白糖やグラニュー糖に比べて強い甘さと香りがあり、煮物などの料理にこくを出すことができます。
協力:精糖工業会 https://seitokogyokai.com/
イラスト:服部新一郎