ほっと一息
2024.03.13
介護ハンドブック 正攻法で説得するより、望む結果を優先しよう
JA広報通信2024年2月号
介護者メンタルケア協会代表●橋中今日子
65歳以上の7人に1人が認知症になるといわれる時代です。認知症の家族を介護する人からは、「いくら説得しても、受診や介護サービスの利用を拒まれてしまう」というご相談が寄せられます。
物忘れ外来の受診を拒む母親
関東在住のKさん(女性・50代・会社員)の母親(70代)は、実家で1人暮らしをしています。母親は最近、電車の乗り間違いをして道に迷うことや、キャッシュカードや通帳を紛失したと大騒ぎすることなどが増えてきました。「認知症では?」と思ったKさんは、母親に「一度、物忘れ外来に行ってみない?」と話したところ「私を病人扱いするな!」とひどいけんまくで怒られてしまいました。
悩んだKさんは、母親が信頼しているかかりつけ医に相談しました。かかりつけ医からは「市の健診を名目に、うちに来てもらうのはどうですか? 必要であれば、物忘れ外来がある病院を紹介しましょう」と提案されました。母親にうそをつくようで心苦しかったKさんでしたが「近所でも健診を受けられるらしいよ」と説明すると、母親は機嫌良く承諾し、受診してくれました。その後、かかりつけ医の「念のために、物忘れ外来にも行ってみましょう」との促しに納得した母親は、物忘れ外来での受診の結果、認知症と診断されました。現在の母親は、デイサービスや訪問介護サービスを利用しながら1人暮らしを続けています。
本人の不安を和らげる方法で伝える
本人が受診や介護保険サービスの利用を拒むケースでは、必要性を理解していないわけではなく、自分の能力や状態を目の当たりにする不安から抵抗していることがあります。説得がうまくいかないときは、望む結果を優先するために「うそも方便」という手段もありだと私は考えています。本人が安心できるように伝え方を工夫したり、伝える人を変えてみたりした結果、サービス利用につながった事例は多いです。