ほっと一息

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2023.11.26

介護ハンドブック 「心のソーシャルディスタンス」を取ろう

JA広報通信2023年11月号

介護者メンタルケア協会代表●橋中今日子

 

 家族が病気と診断されたり、介護が必要になったりすると、支える家族は「私がなんとかしなければ!」と強い責任感や使命感を抱いて熱心に関わることがあります。しかし、その強い思いがかえって逆効果になることもあるのです。

 

 消極的な妻との差にいら立つ夫

 Bさん(男性・70代)は、パーキンソン病を患う妻と2人暮らしです。パーキンソン病は、体が動きづらくなる原因不明の難病で、進行すると寝たきりになることもあります。根本的な治療方法はなく、投薬の他、散歩やストレッチ、リハビリなどの運動が推奨されています。Bさんは、妻を頻繁に散歩に誘いますが、断られてばかりです。先日、Bさんは妻に「寝たきりになったらどうするんだ? 施設に入れるぞ!」と怒鳴ってしまいました。その結果、妻はますます自室に引きこもるようになってしまいました。

 

 不安を気兼ねなく話せる場へ参加しよう

 Bさんが妻のためを思って行動しているのは事実ですが、それ以上にBさんを突き動かしているのは「妻が寝たきりになったらどうしよう!」「なんとか病状の進行を抑えなければ」というBさん自身の不安と焦りです。相手を思うあまり、無意識にコントロールしようとすることもあるのです。
 Bさんには、ケアマネジャーへの相談と同時に、家族介護者や男性介護者の会の情報を集めるよう提案しました。最近は、介護で孤立しやすい男性介護者のための集まりや勉強会が増えています。Bさんはその後、地域包括支援センターの職員から勧められた家族介護者の会に参加してみました。他の介護者の話を聞いたり、笑いながら愚痴を言い合える仲間と出会え、妻へのいら立ちは減ってきたそうです。
 要介護者の言動が気になって仕方がないときは、「心のソーシャルディスタンス」を取る機会かもしれません。悩みを相談する機会や場所を積極的に探してみましょう。