ほっと一息

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2023.11.21

永山久夫の健康万歳! 恋する湯豆腐

JA広報通信2023年11月号

食文化史研究家・日本の長寿食研究家●永山久夫

 

 恋を接近させる湯豆腐

 朝夕の寒さが増してくると、無性に恋しくなるのが鍋料理。体ばかりか、心の中まで温かくなります。
 シンプルで、植物性のタンパク質がたっぷり取れるのが湯豆腐です。ヘルシーで長寿効果も高いため特に秋から冬にかけて効果があります。
 江戸時代には、若い男女の仲を近づける料理として湯豆腐が好まれました。
 男が女性を湯豆腐屋に誘って一緒にのれんをくぐれば、その恋は成就したも同然といわれてきたのです。
 鍋を挟んで向かい合い、顔が触れそうになるくらい超接近して食べるからで、よほど好きでもなければ、そこまで相手に顔を近づけることはできません。
 気付いたらいつの間にか男が女性のそばに密着して一緒に豆腐をすくい上げていたりします。

 湯豆腐のこつ

 豆腐を湯煎しながら、漬けじょうゆで食べるのがこの料理の特徴で、昆布でだしを取った汁を用い、薬味にかつお節や大根おろし、ネギなどを添えます。煮過ぎると豆腐が硬くなりますので見極めがこつ。そこへ行くと、次の川柳のように江戸っ子は洗練されていました。
 湯豆腐は 波打ち際で すくい上げ
 波打ち際は鍋のへりのことです。
 すくい上げた湯豆腐にさっとかつお節をかけ、漬けじょうゆで口に運びます。だしが効いていて、とっても美味。
 豆腐で注目されるのはイソフラボンです。女性ホルモンと似た働きがあり、女性の若返り作用で脚光を浴び、最近では「美人ホルモン」などと呼ばれたりしています。もちろん、男性の老化防止にも役に立つといわれています。
 かつお節をたっぷりかけると、豆腐とかつお節のタンパク質が一緒になって長寿効果がいっそう高くなります。そのタンパク質には、セロトニンという幸せホルモンの原料になるアミノ酸が多く、心が楽しくなってしまうのです。

 

食文化史研究家・日本の長寿食研究家 永山 久夫(ながやま ひさお)

1934年福島県生まれ。食文化研究所、綜合長寿食研究所所長。古代から明治時代までの食事復元研究の第一人者。長寿食や健脳食の研究者でもあり、長寿村の食生活を長年にわたり調査している。