ほっと一息

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2023.10.31

介護ハンドブック 脳卒中後のうつを患った家族への対応

JA広報通信2023年10月号

介護者メンタルケア協会代表●橋中今日子

 

 脳梗塞や脳出血の後遺症といえばまひや言語障害といったイメージが強いものですが、脳の血流量の変化によって、抑うつ状態のような精神症状が出ることがあります。

 脳梗塞後に悲観的な言動が増え引きこもり状態に

 Aさん(男性・60代)と妻は、卓球と登山が趣味で、地域活動にも積極的に参加する活動的な夫妻です。ところが、半年前に妻が脳梗塞で倒れてしまいました。幸い、手足に軽いしびれが残るものの、リハビリの成果もあって、つえなしで歩けるまでに回復しました。しかし妻は「生きているのがつらい」と嘆き、ずっと横になっています。Aさんは「寝て過ごしてもなんにも変わらないよ! 頑張らなきゃ!」と叱咤(しった)激励しますが効果がありません。

 

 心療内科の受診で笑顔が戻る

 その後、妻は主治医の勧めで心療内科を受診し、「脳卒中後うつ病」と診断されました。うつ症状は、本人の意志で解決できるものではありません。家族は、悲観的な言動を目の当たりにするのがつらく、早く元気になってほしいという思いから励ましたくなります。しかし、本人は「早く元気にならなければ」と焦っている場合もあり、励ましが逆に本人を苦しめることもあるのです。
 妻は、心療内科で処方された薬の服用を続け、調理や手芸、園芸などに取り組む作業療法を受けるようになりました。半年ほどたった頃には悲観的な言動が少なくなり、笑顔が増えてきたそうです。現在は、同じ年代の人が多いデイサービスの利用も検討しているとのことでした。妻の変化によって、Aさんは精神的な余裕を取り戻すことができ、地域活動や趣味を再び楽しむことができるようになりました。
 大病を患った家族の様子がおかしいと思ったときは、家族だけで悩まず、ケアマネジャーに相談して医療機関を受診しましょう。心療内科での治療は、比較的ゆっくり成果が出ることが多いですから、焦らず気長に見守るのもポイントです。