ほっと一息

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2024.07.01

身近な草木 和ハーブ入門 ベニバナ 真紅をまとうメイクアップ・カラー

JA広報通信2024年6月号

植物民俗研究家/和ハーブ協会副理事長●平川美鶴

 

 和ハーブは在来種ばかりでなく、江戸時代以前より広く暮らしに用いられてきた外来種や栽培種も含みます。中でも食や薬の用途だけでなく、化粧で積極的に用いられてきた身近な草木がベニバナ(紅花)です。
 ベニバナは天然素材で唯一、真紅(しんく)を抽出できます。エジプト周辺から日本へ3世紀ごろに流入してきたようです。山形県の最上紅花(もがみべにばな)は、開花の合図を「半夏の一つ咲き」と呼ばれ、7月上旬の半夏生(はんげしょう)の頃、ベニバナ畑の中に1輪咲いたと思うと一気に咲き広がり、手摘みの最盛期を迎えます。「紅」といいながらも花弁の色素の99%以上は黄色で、紅色の色素はわずか1%以下。これは1000輪の花を摘んでようやく、おちょこにひとはけ分の紅が塗れる程度の希少さです。
 ちなみに日本では古来、赤・黒・白が化粧の基本色で、メイクアップ技術においては今も欠かせません。特に赤は「明(あか)し」に由来し、生命をはっきりと輝かせるアクセントカラーです。そして太陽や血液を連想させる色でもあり、子どもや女性の一生を守る魔よけの力があると信じられてきました。ベニバナから丁寧に抽出した紅を唇に差すと、その人の血色に反応して独自に発色します。また、塗り重ねると玉虫色に光り輝き、美しさを演出してくれます。この魅惑的かつ高級な天然コスメ・紅猪口(べにちょこ)は、現代にも静かに受け継がれています。
 ところでベニバナは化粧の他、布や糸の天然染料として、あるいは食紅として和菓子などの色付けにも使われています。さらには血の巡りを良くすることが古来から知られていて、花弁は茶や酒に漬けて飲まれてきました。料理で使う紅花油は種子を搾って抽出しますが、現在ではそのほとんどが海外より輸入されています。

 

ベニバナ畑の風景(7月上旬 山形県)

 

 

植物民俗研究家/一般社団法人和ハーブ協会副理事長 平川 美鶴 (ひらかわ みつる)

8月2日“ハーブの日”生まれ。全国各地の足元の植物と人のつながりを訪ね、日本人らしい生き方や感性を探求。講演、執筆、ものづくり、フィールド案内、実践ワークショップ、地域創生プログラムなど幅広く携わっている。著書に『和ハーブのある暮らし』(エクスナレッジ)など。