ほっと一息

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2024.04.14

農作業の現場で役立つ! 知って備える応急手当て

JA広報通信2007年4月号

監修…JA長野厚生連 佐久総合病院名誉院長 松島松翠氏

 

  農作業に事故やけがはつきもの。ただ、日ごろから応急手当ての方法を覚えておけば、万一の場合に適切な対処ができ、症状を少しでも和らげたり、生命の危機を回避することにつながります。今回は「農薬中毒」「切り傷・刺し傷」「熱中症」の三つについて、現場でできる応急手当ての方法を身につけておきましょう。

 農薬中毒

症状  

農薬の散布中に気分が悪くなったりしたことはありませんか? 皮膚から吸収される農薬の毒性を1とすると、口から入った場合はその10倍、鼻から肺に入った場合は50倍に高まるといわれています。

 中毒の症状は、使用した農薬の種類によって異なりますが、大きくは次の3段階に分けられます。

〈軽症〉頭痛、頭が重い、めまい、吐き気、気持ちが悪い、など

〈中等症〉嘔吐(おうと)、腹痛、発熱、歩行がよたよたする、など

〈重症〉意識がはっきりしなくなる、全身けいれん、口から泡を吹く、など

 

応急手当てのやり方

 できるだけ初期のうちに手当てすることが大切です。散布中に頭痛がしたり、気分が悪くなったりしたら、この段階ですでに農薬中毒の入り口にいるわけですから、すぐに作業を中止します。

 農薬が口から入って間もない段階なら、水または食塩水をコップ2~3杯飲ませ、農薬を吐かせます(ただし意識がないときは無理に飲ませない)。皮膚に付着した場合は、皮膚をせっけんでよく洗います。吸い込んだ場合は速やかに新鮮な空気のある場所に移動して、深呼吸させます。  中等症の場合はすぐに病院へ行きます。その際、どんな農薬を使っていたのか医師が分かるように、農薬の入っていた瓶や袋のラベルを持っていくようにしましょう。

予防のポイント

 日本農村医学会の調査によると、農薬中毒の発生原因は「防備不十分」が32%とトップです(調査は1998~2000年)。散布では、防除用の保護衣やマスク、ゴーグル、長靴などを正しく着用することが大切です。特にマスクの役割は重要で、鼻と口をしっかりと覆い、農薬の侵入をガードします。

 また、1人での作業では万一のときに発見が遅れて危険です。なるべく2人以上で作業しましょう。 口から入った場合、水または食塩水を飲ませて吐かせる 皮膚についたときは、汚染した衣服を脱ぎ、皮膚をせっけんでよく洗う。(アルカリ性のものと混ぜると分解してしまう農薬もあるため、普通のせっけんがよい)

 

切り傷・刺し傷

症状

 草刈り機やかまなどで指を切ってしまったり、板から突き出ていたくぎなどで体を刺してしまうなど、日常で切り傷や刺し傷を負うことは頻繁に起こります。また、大きな事故の場合は指を切断してしまうケースもあります。

 農作業中のこうしたけがでは、傷口に土や泥が付着しやすく、そこから菌が侵入して病気を引き起こす可能性が高いので要注意です。

 

応急手当てのやり方

 傷口をすぐに水道水などで洗い流します。近くに水道がない場所なら、水を入れたやかんを常に用意しておくと便利です。

 

 土などを落としたら消毒して、ガーゼを当てます。もし傷が大きい場合は止血をします。出血した部位にガーゼやタオルなどを当てて直接押さえる方法と、わきの下の中央や脚のつけ根部分にある動脈を指で圧迫する方法があります。 出血した部位を清潔で厚みのあるガーゼで覆い、上から圧迫する 傷口をすぐに水で洗い流し、土や泥を取り除く

 

予防のポイント

 農作業の安全管理が何よりも大切です。けがによって自身の健康が損なわれるだけでなく、治療が長引けば農業経営に大きな支障が出てきます。また、ねんざや骨折などの場合、高齢者は重症のケースもあり、回復が遅れがちなのでより慎重な作業が求められます。

 作業前に安全をきちんと確認し、作業者同士で声を掛け合うなど、安全管理を徹底しましょう。

 

熱中症

症状

 熱中症は高温の環境下で発生する障害全般を指します。気温が30度を超えるような暑い夏、屋外で農作業をしていると熱中症にかかるケースが少なくありません。太陽の強い日差しの下で長時間作業をしていた場合に起きやすい日射病、閉め切った暑い場所での作業中に起きる熱射病などがあります。

 主に、めまいや吐き気、頭痛、だるさなどの症状が現れ、時に体温が40度を超えて意識障害に陥り、亡くなる可能性もあります。

 

応急手当てのやり方

 日陰の涼しい所に移動し、衣服を緩めます。上着などは脱がせて、できれば冷たい水に濡らしたタオルや布を当てて全身を冷やします。

 もし意識がなく、汗をかいていないような場合はすぐに救急車を呼びます。意識がしっかりしているときは、水を小まめに飲ませます。真水よりもスポーツドリンクなどの電解質を含む飲み物が適しています。 涼しい場所で衣服を緩めて、全身を冷やす

 

予防のポイント

 長時間の作業を避け、小まめな水分補給と休憩が必要です。塩分が不足すると脱水症状を引き起こしやすいので、休憩時にはお茶と一緒に梅干しなどの塩分を含む食品を口にするといいでしょう。 水と一緒に梅干しなどで塩分を補給することが大切

 

万一に備えて用意しておきたいもの

農薬中毒やけが、熱中症などになった際、素早く処置ができるように、下記のものを田んぼや畑、作業場などに携行したり、用意しておきましょう。

□水(やかんなどに入れて持っていく)

□消毒済みのきれいなガーゼ

□包帯

□ばんそうこう

□スポーツドリンク

□梅干し

 

参考文献 『健康福祉ハンドブック』編集・監修/佐久総合病院、発行/財団法人農村保健研修センター 2004年 『覚えておきたい応急手当ゼミ』監修/鈴川正之、発行/財務省印刷局 2003年