ほっと一息
2023.06.28
介護ハンドブック 配偶者の両親を誰が介護するか、正解はない
JA広報通信2023年6月号
介護者メンタルケア協会代表●橋中今日子
介護問題では、家族の価値観の違いがトラブルのもとになることもあります。不仲ではなかったけれど、介護問題に直面し、初めて考え方の違いを知る方も少なくありません。
夫婦間の価値観の違いが浮き彫りに
関西出身で東京在住のBさん(男性・50代)は、実家の父親(80代)が脳梗塞で倒れ、寝たきり状態になりました。Bさんは入院している父を家に連れて帰ってあげたい、両親を支えたいと考え、妻に「関西に異動願いを出して両親をサポートしたい」と伝えました。しかし、妻の返答は「私は東京に残る。困ったときにはもちろん手伝うけれど、義両親の介護だけのために、自分の生活や、築いてきた人間関係を犠牲にしたくない」というものでした。「妻は当然関西に付いてきてくれる、一緒に介護してくれる」と考えていたBさんはがくぜんとしました。
Bさんから相談を受けた私は、これから介護問題に向き合う上で、夫婦の意見の擦り合わせの第一歩となる良い機会になると思いました。これまで延べ2000件以上の介護相談に対応してきましたが、配偶者が我慢しながら介護に協力した場合、家族関係を破綻させるようなトラブルに発展するケースがとても多いからです。「介護したくない」「協力できない」と言うと、冷たい人だと思われるのではないか、非難されるのではないかとの不安から本音を言えない人もいます。
お互いの価値観を共有し尊重を
家族や夫婦の関係は、それぞれの家庭によって異なります。お互いの両親の介護にどこまで立ち入るか、正しい答えはありません。上手に協力体制が取れている夫婦に共通しているのは「自分を犠牲にしない」と線引きし、自分の気持ちを伝える機会をつくっていることです。1回の話し合いで、どこまで協力するか、何をするかを決めるのは困難です。まずは、お互いの考えを知り、人生で何を大切にしたいのかを率直に話す、聞く機会を持つことから始めましょう。