ほっと一息

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2023.04.04

大豆のマメ事典

JA広報通信2023年3月号

監修:国分牧衛(農学博士・東北大学名誉教授)
イラスト:服部新一郎
参考文献:「ダイズの絵本」(国分牧衛編/農山漁村文化協会刊)

 

 

なんとなく地味だけれど、日本人の食生活には古来欠かせない存在――。
それが大豆! 私たちを支えてきた大豆の底力に、ぜひご注目を。

エライぞ! 大豆私たちの毎日の食事は大豆なしには成り立たない

 日本にも世界にもさまざまな豆がありますが、その中でも大豆は別格の存在といえるでしょう。大豆がなければ私たちの食生活は成り立ちません。
 大豆は日本では弥生時代ころから栽培されていたと考えられています。痩せ地でも育ち、日本全国の風土も選びません。豆として食べるだけでなく、古くから親しまれている納豆、豆腐、油揚げ、きな粉、豆乳、湯葉などなど……。若い実をエダマメとしても食べますし、豆もやしもおいしいです。
 そして、最も注目すべき大豆製品がみそ、しょうゆ。これは塩と共に日本の食の基本となる調味料です。日本人は古来、主食としての米や雑穀、芋と共に、知恵を尽くした大豆加工品によって独自の食文化を紡いできたのです。


種まきから50日ほどで薄紫色の愛らしい花が咲きます。10月初旬から11月初旬ころにかけて収穫時期を迎えます。

 

 

大豆と日本文化 重要な食品だからこそ特別な意味を持ってきた

 重要な作物だからこそ、人々は大豆にある種の尊さを感じてきました。おせち料理に黒豆を使うのは「今年もまめ(健康)に暮らせるように」という祈り。節分にはいり大豆をまき、玄関の魔よけとしてイワシと一緒に大豆殻を飾ります。大豆の茎をお正月に飾ったり、かまどの火おこしに使う風習もあります。
 10世紀ころの医学書「医心方」(いしんぼう)には、食中毒や産後に大豆の煮汁やきな粉を食べると良いという記述も。実際、大豆の成分には高血圧や糖尿病などを防ぐ効果があることも分かっています。
 田んぼのあぜで手をかけずとも育つ大豆は、自家製のみそやしょうゆなどに加工され、人々の健康を支えてきました。近年は都市部でもみそ造りや納豆作りがブーム。大豆の魅力があらためて見直されています。

 

大豆の栄養とは?米との組み合わせで完璧なバランスに

 大豆は「畑の肉」ともいわれる通り、タンパク質が豊富に含まれています。豆腐わずか3分の1丁で卵1個分と同じタンパク質を含んでいるのです。必須アミノ酸を数多く含み、レシチン、サポニン、イソフラボンなど体に良いとされる機能性物質も豊富。さらに大豆油にもするほど脂肪分は多く、人間が生きるのに必要な三大栄養素中、足りないのは炭水化物だけ。
 そこを助けるのが米です。炭水化物主体の米と、みそ、納豆、豆腐などの大豆加工品を一緒に食べる―。これはまさに理想的な組み合わせといえるでしょう。

世界で活躍する大豆 伝統食や飼料、食用油…… 大豆流通は世界のインフラに

 古代にアジアで始まったとされる大豆栽培は、今や世界に広がっています。それだけ役立つ作物だったからです。
 東南アジアでは、納豆に似た各種の発酵食品が伝統食として今も日常で愛されています。日本の豆腐、みそ、しょうゆも世界各国で手に入り、多くの人が楽しむようになりました。また、産地も世界に広がりました。現在、最も多く栽培しているのはブラジル、次いで米国。多くは食用油や家畜飼料になっています。残念ながら、昨今では他国の戦乱により流通が途絶えた地域では困難もありました。日本でも良質の大豆が入らず、しょうゆ醸造をやめざるを得なかった会社もあります。

インドネシア発祥のテンペ(右)と、タイやラオスなどで親しまれているトゥアナオ。どちらも大豆発酵食品。

 

 

大豆の種類は膨大 知名度の高いものだけでなく地域の伝統種もさまざま

 一言で大豆と呼んでも、実はその種類は非常に多様です。。何しろ日本で1000年以上栽培されてきたのですから。その長い歴史の中で、地域の条件に即したさまざまな品種が生まれてきました。
 数え切れない品種を大きく分けると、まず色。私たちが大豆として思い浮かべるクリーム色の品種には、煮豆や豆腐、しょうゆ、エダマメに向くものがあります。小粒の品種は豆もやしや納豆にされます。また丹波黒など黒い大豆は煮豆や甘納豆に。茶豆はエダマメとして人気です。青い豆もゆでて塩豆にしたり、きな粉にしたり。用途は限定されてはいませんが、一番おいしく食べられる方法をその土地土地で考えてきた結果としての伝統食でしょう。
 大豆の原種は山や野原に今も自生するツルマメという植物です。おいしいとはいえませんが、もしも見つけたら、その小さな黒い豆を食べてみるのも楽しいかも!?

大豆の品種と用途

信濃青豆


エダマメやきな粉に加工されます。

 

 

フクユタカ


納豆、みそ、煮豆、しょうゆなどに使われる代表的な品種。

 

 

丹波黒


おせち料理の煮豆に欠かせません。

 

 

ツルマメ


野生種。北海道を除く日本全土に自生しています。

 

 

納豆小粒


豆が小さく主に納豆に加工されます。