ほっと一息

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2023.03.30

お米をおいしく楽しもう 知っているようで知らないお米の世界

JA広報通信2023年3月号

五ツ星お米マイスター●小池理雄

 

 「収穫倍率」という言葉をご存じでしょうか? 種もみを1粒まいて何粒の収穫が得られるかを表す言葉です。実は……お米は400~500倍といわれています。これは小麦のおよそ1・5倍に当たるそうです。約3000年前に日本に伝わった稲は狭い耕地でも多くの収穫量を上げたため、私たち日本人は命をつなぐことができたのです。

 人口爆発が懸念されている現代においても、非常に生産効率の良いお米はますます重要な食糧になることは間違いありません。

 「お米に関心を持ってほしい」とお米業界の人が叫んでも、それだけでは消費者は振り向きません。私はこういった「お米のすごさ」を伝えることが大事だと思っています。

 私が行う食育の授業では、子どもたちに「実際にお米がなくなったらどうなるか」を理解してもらうことを意識しています。そうしないと肌感覚でお米のすごさを分かってもらえないからです。子どもたちが好きなすし、おにぎり、牛丼、餅、大福、団子、せんべい……がなくなる世界を想像してもらうのです。

 

 日本の国は、蓄えを持つ者が他人を支配することから始まりました。その蓄えこそ保存の利くお米だったのです。江戸時代になると、大名が治める領土の価値は「○○万石」といってお米の生産量(石高)を基にはじき出していました。世界中どこを見渡しても領主の力をお米の収穫量で表す国はありません。

 今では当たり前に私たちの身の回りにあるお米ですが、昔はいつでもおなかいっぱいに食べられる食糧ではありませんでした。農学者の佐藤洋一郎先生は「日本人は『米食民族』ではなく『米食悲願民族』だった」とおっしゃっています。

 「お米って何ですか?」と聞く人はいません。それでもお米の真実についてご存じの方はあまり多くありません。この連載を通じて皆さんに「知っているようで知らないお米の世界」を少しでもご紹介できればと思っています。

 

 

五ツ星お米マイスター 小池 理雄(こいけ ただお)


小池精米店三代目店主。1971年東京・原宿生まれ。大学卒業後、出版社、人事制度コンサルティングファームなどを経て、2006年に小池精米店を継ぐ。それまでの社会経験を生かし、新しいお米屋さんのあり方を常に模索している。