ほっと一息
2023.03.17
介護ハンドブック 家族のことを忘れてしまった親への対応
JA広報通信2月号
介護者メンタルケア協会代表●橋中今日子
認知症で記憶障害が進んだ方は、家族のことが誰なのか分からず怒鳴ったり暴れたりすることがあります。これは、家族の対応が良くないからでも、周りの人を全て敵視しているわけでもありません。知らない人がいきなり距離を詰めてきているように感じ、不安や恐怖から防衛的になっていることがほとんどです。
■ デイサービスでは社交的な母親
50代のAさん(女性・パート)のケースです。Aさんの実家では、父親(78歳)が認知症の母親(78歳)を介護しています。最近、母親の症状が急激に進み、Aさんのことを娘だと認識できず、興奮して「あんた誰!?」と怒鳴ることが増え、実家に行きづらくなりました。「デイサービスでは社交的で人気者だ」という話を聞いたAさんは、そっと母親の様子を見学してみました。そこで、スタッフや他の利用者と楽しそうに会話をしている母親の姿を見て「他人のように振る舞ってみよう」と思い付いたのです。
久しぶりに実家を訪れたAさんが「カズコさん、お茶いかがですか?」と声をかけてみると、母親は「あら、ありがとうございます」と、笑顔で答えてくれたのです。名前で呼んでも荒れ狂うこともあるのですが、「お母さん」と呼ぶよりも確実に良い反応が増えました。
Aさんは「私のことを忘れてしまったのはつらいし、思い出してほしい気持ちがゼロになったわけではありません。でも、笑顔の母と一緒にお茶を飲んでいたら、友人同士のような穏やかな時間を一緒に過ごすのもいいな、と思えるようになりました」と話してくれました。
■ 「○○さん」と名前で呼びかけてみる
「お母さん」「お父さん」といった続柄ではなく名前で呼びかけると比較的穏やかに反応してくださる方はとても多いようです。また、暴言や暴力が続くときには、体調の悪化が影響している可能性もあります。ケアマネジャーへ相談するとともに、医療機関へも相談してみましょう。