ほっと一息
2023.03.09
知って おきたい! 消費税インボイス制度
JA広報通信2月号
監修:JA全中・JAまちづくり情報センター 顧問税理士●柴原 一
イラスト:出口由加子
2023(令和5)年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。
「インボイス? 聞いたことはあるけど、中身はよく知らない……」という方もいらっしゃるかもしれません。
インボイス制度の仕組みや農家への影響、さらには備えるべきポイントなどを紹介します。
インボイス制度とは?
インボイス制度では、原則課税方式により消費税を申告している課税事業者はインボイス(適格請求書)を用いて、仕入れ時にかかった消費税額を差し引いて消費税を申告・納税することになります。
これまで売り上げ1000万円以下で消費税を申告する必要がなかった免税事業者も取引先からの求めがあれば、税務署に申請して適格請求書発行事業者(課税事業者)となることを検討する必要があります。
インボイス制度のポイント
①インボイスとは、適用税率や消費税率などの正確な情報を記載した書類やデータのこと。
②2023年10月から原則課税方式により消費税を申告している事業者が仕入税額控除(売り上げにかかった消費税額から仕入れにかかった消費税額を差し引いて納税すること)を行うためには、原則として仕入れ先からインボイス(適格請求書)を発行してもらい、保存しておく必要がある。
③インボイスは税務署長の登録を受けた課税事業者にのみ発行が可能。
④今回の制度変更によって生じる免税事業者への影響を考慮して、経過措置が設けられている。
インボイス制度の農家への影響とは?
売り上げ1000万円以下の免税事業者は課税事業者となり、税務署に登録申請書を出して適格請求書発行事業者になるか、現状の免税事業者を維持するかを選択しなければなりません。双方のケースの留意点について紹介しましょう。
①適格請求書発行事業者になる場合
これまで税務申告は所得税のみで済んでいましたが、適格請求書発行事業者になると、消費税申告も必要となるため実質的に収入が減少します。また、原則課税の場合には、免税事業者である他の農家に作業委託したり、免税事業者である業者から仕入れたりした場合は、原則としてその請求額から消費税を控除できない(経過措置あり)ため、その自己負担分をどうするか検討する必要があるでしょう。
②免税事業者を維持する場合
消費税の申告が不要なので事務負担を軽減できます。その一方で、販売先の小売店・飲食店(課税事業者)からインボイスを求められても発行できないので、今後の取引に影響が出る可能性があります。
インボイスの発行について
インボイスとは、消費税の税率が複数存在する中、売り手から買い手に対する適用税率や消費税額などの正確な情報を記載した書類やデータのことで、適格請求書発行事業者にならないと発行できません。ただ、次のような場合は発行不要です。
○買い手が事業者以外の個人の場合
○買い手が免税事業者である場合
○買い手が簡易課税事業者であっても、インボイスの発行を求めていない場合
もちろんこれらは販売時には判別できません。そこで、できるだけインボイスを発行できる体制を整えておくことが必要でしょう。インボイスの発行に際しては、従来の請求書に次の2点の事項を追加しなくてはなりません。
○適格請求書発行事業者の登録番号
○商品ごとの適用税率と消費税額
当面の措置として負担緩和策が導入されます
インボイス制度の導入に際して、円滑な制度の実施や小規模事業者の負担軽減のために緩和措置が設けられることになりました。具体的には、売り上げ1000万円以下の事業者が「適格請求書発行事業者」になった場合、制度実施後の3年間は仕入れなどで払った消費税額がいくらであろうと、売り上げにかかる消費税額のうち、一律で2割だけを納めればよいことになりました。また、年間売り上げ1億円以下の事業者への負担緩和措置も導入。2023年10月から6年間は1万円未満の仕入れについてはインボイスがなくても仕入税額控除が可能となりました。
インボイス制度で変わること(販売時・仕入れ時)
【販売時】農作物を販売する場合
■買い手から直接インボイスを求められるケースが増加
原則課税による課税事業者である小売店や飲食店などに直接販売している場合には、先方からインボイスの発行を求められることになります。ただし、免税事業者の場合はインボイスを発行できないため、今後の取引が不利になることに留意する必要があります。
※令和5年度税制改正大綱によると、基準期間における課税売上高が1億円以下である事業者は、インボイス制度の施行から6年間、1万円未満の課税仕入について、インボイスの保存がなくても帳簿のみで、仕入税額控除が可能になる予定です。
【購入時】農業用資材や農業機械などを購入する場合
■生産者(原則課税による課税事業者)は仕入れ時にインボイス発行を依頼します
原則課税による課税事業者になった生産者が農業用資材や農業機械などを購入し、それらを仕入税額控除の対象とするには、仕入れ先にインボイスの発行を求めるようにしてください。
インボイス交付が免除される特例があります!
【農協特例】JAに販売委託する場合
組合員である生産者の農産物をJAが無条件委託方式で販売し、その代金を共同計算方式により精算する場合には、生産者はインボイス発行義務が免除されます。この場合、買い手である小売店や飲食店などはJAが発行する書類により仕入税額控除が可能になるため、生産者が適格請求書発行事業者か否かは関係ありません。
※JA直売所で販売委託する場合は、生産者が適格請求書発行事業者ならJAが生産者に代わりインボイスを発行し、買い手である小売店や飲食店などに交付することができます(媒介者交付特例)。
【卸売市場特例】JAに販売委託した農産物を卸売市場に出荷する場合
生産者がJAに販売委託した野菜などの農作物を卸売市場に出荷して販売する場合も、生産者はインボイスの交付義務が免除されます。卸売業者などの買い手は卸売市場が発行する適格請求書で仕入税額控除を行うため、生産者が適格請求書発行事業者か否かは関係ありません。
※内容は2022年12月現在。今後変更される場合もあります。