ほっと一息
2023.03.08
みんなで支え合える社会に 認知症を知ろう
JA広報通信2月号
イラスト:服部新一郎
認知症になったら1人ではもう何もできなくなる? それは間違いです。
早期診断と地域の支えにより尊厳のある生活を守れます。
まずは認知症について、誰もがきちんと知ることが大切なのです。
①認知症とは? 原因になる病気はいろいろ 決して人ごとではありません
よくいわれるように「物忘れが始まったら認知症」なのでしょうか?
いいえ、認知症は誰でもかかる可能性のある脳の機能障害であり、融通の利かない人や怠けた生活をする人がなりやすいといわれるのもまったくの誤解です。
認知症とは、認知機能の低下によって生活に支障が続いている状態をいいます。加齢による物忘れでは、例えば目の前の知人の名を思い出せなくても、ヒントをもらえば分かります。しかし認知症では、その部分の記憶が抜け落ち、誰なのか分からないままになるのが大きな違いです。
原因になる病気はさまざまありますが、認知症の約60%が脳にタンパク質のごみのような物質がたまって神経細胞のネットワークを壊していくアルツハイマー病で、記憶障害や見当識障害、不安・うつなどが出やすくなります。また、約20%を占める脳血管障害は脳梗塞や脳出血で起こり、意欲が落ちて複雑な作業がしづらくなります。レビー小体型は約10%で、幻視や寝ぼけ、うつ症状などが出てきます。
その他、前頭側頭葉変性症(ピック病)、脳腫瘍、アルコール中毒なども認知症につながる病気です。
②実はとても多い認知症 85歳以上の4人に1人症状を遅らせることはできます
認知症の症状を持つ人は非常に多く、85歳以上では4人に1人※といわれます。またその半数以上が自宅で暮らしています。夫婦2人暮らしや1人で生活する人も多くいます。長寿になったこと、そして物忘れ外来などで診断を受ける人が増えたこともこの数字の多さの要因であり、今後はますます増加していくと思われます。
高齢者ではない人(65歳未満)が発症する若年性認知症も少なくありません。
認知症は脳血管障害の場合を除き、いきなり発症することはありません。約60%を占めるアルツハイマー病も10年以上をかけて徐々に進行し、あるときから本人や周囲が「おや、おかしいな?」と気付くのです。
脳機能を元に戻す方法は、残念ながらまだありません。しかし進行を遅らせる薬は数種類あります。周囲からのケアや生活習慣病改善が症状の進行を遅らせる作用が大きいことも確認されています。
③認知症を予防するには? 健康な食生活や低ストレス、人との交流も大切です
認知症を完全に防ぐ方法は今のところありません。しかし生活習慣病を防ぐ食生活や適度な運動、好きな趣味の継続などは間接的な効果があります。また、人との交流も大切です。コロナ禍で人との接触が減ったことでストレスが増し、世界中で認知症の発症が増加したともいわれます。
鍵は早めの診断です。「自分は認知症になんかならない」と思っている人ほど診断が遅れ、症状も進んでしまいます。そうした人は家族などによる受診の勧めも拒否しがち。認知症という言葉を出さずに心療内科や物忘れ外来などのクリニックに一緒に行き、時間をかけて理解してもらうのも一手かもしれません。
もちろん、自分自身で変だなと感じたら、早めの受診を!
④認知症の人への対応は? 本人の思いに寄り添って急がせない自然な手助けを
今は認知症の人たちを地域の中で見守りながら、できるだけ普段通りに生活してもらうことが推奨されています。身近な場で認知症と思われる人が困っていたら、さりげなく自然に支援しましょう。認知症の人は何も分からなくなっているのではありません。分からないことにぶつかり、不安や苦しみ、悲しみを抱えているのです。
急がせない、驚かさない、自尊心を傷つけないが鉄則。後ろから声をかけたり、上から見下ろしたりせず、目線を合わせて穏やかに話し、ゆっくりと対応しましょう。その人の話が現実とかけ離れていても、否定するとますます動揺を呼ぶこともあります。話の内容に寄り添い、何をすべきか推測していきます。認知症なのかと聞くなどの対応は相手を苦しめるので、避けるべきです。
⑤広がる社会的な支援 各地の公共機関の支援や認知症サポーター制度が貢献
認知症の人たちへの支援や相談対応は、それぞれの自治体の地域包括支援センターや高齢者支援課などで行っています。それに加え、全国で広がっているのが「認知症サポーター制度」です。
これは認知症に関する講座を受講した市民ボランティアのこと。認定カードと、腕に巻くオレンジリングを目印とし、道で困っている人を手助けしたり、買い物などのサポート、周囲への啓蒙などを行います。JAでも養成講座を各地で開催しています。
近年では認知症サポーターが中心になって開く認知症カフェも各地で注目されています。カフェといってもお金を取る飲食の場ではなく、予防のための交流や、家族や本人の相談などに広く開かれたイベントです。まだ自分や家族には関係ないと思う人も、今後のため、近くで開かれていたらぜひのぞいてみてはいかがでしょう。