ほっと一息
2023.01.10
野菜のルーツ 国名が名の由来――ホウレンソウ(アカザ科)
JA広報通信1月号
植物ライター ●岡田比呂実
緑黄色野菜の代表格の一つで、今でこそ一年中店頭で見られますが、本来は耐寒性の強い冬野菜。根元の部分の甘さといい、味の濃さといい、最もおいしさが味わえるのは真冬です。
味の濃さは栄養価に比例しているようで、冬に栽培すると特に栄養価が高く、高温期に栽培するとビタミンCが3分の1ほどまで落ちることが分かっています。
原産地は西アジア地方で、栽培化されたのはペルシャ(現在のイラン)だといわれています。漢字で「菠薐草」と書きますが、菠薐とはペルシャのこと。ルーツとなった国名に由来した名前なのです。
品種はペルシャからヨーロッパに伝わった西洋系(葉が丸く肉厚で、根元の赤みが薄い)と、中国に伝わった東洋系(葉が薄くて切り込みが深く、根元の赤みが濃い)に分けられます。 日本へは16世紀ごろ、中国を経て東洋系品種が渡来したのが最初だと考えられています。しかし大衆的な野菜とはならなかったらしく、貝原益軒の『大和本草』(1709年)には、「体を冷やすので多食してはいけない」とか、「微毒があり、食べても益なし」といった内容の記述が見られます。西洋系品種は1862年ごろにフランスから初めて導入されましたが、長く普及しませんでした。
主要野菜としての地位を確立したのは、意外にも戦後しばらくたってからのことです。健康野菜というイメージの確立には、「ポパイ」の存在も欠かせないでしょう。ホウレンソウの缶詰を食べたとたんにパワーを発揮する水夫が主人公のアメリカ漫画で、日本でもテレビアニメが放映され、人気を博しました。 現在栽培の主流になっているのは、東洋系と西洋系の長所を併せ持った交雑品種で、あくが少ないサラダ専用品種も出回っています。