ほっと一息
2022.12.21
日本の食べ物が大ピンチ!? 「食料安全保障」って何ですか?
JA広報通信12月号
今、世界的な問題となっている食料価格の上昇。日本国内でも小麦粉、パン、食用油、加工肉などの値上げが相次いでいます。こうした中で「食料安全保障」という言葉を耳にするようになりました。実はこれ、日本の食生活を守る上でとても大切なキーワードなのです。
※本記事は、鈴木教授への取材をベースに政府などの公式見解を総合して編集部で整理・作成したものです。
食料安全保障の専門家に聞きました!
一般財団法人食料安全保障推進財団
https://www.foodscjapan.org/
理事長 鈴木宣弘さん
東京大学大学院教授。農業経済学の第一人者として安全な食を支える農林水産業の振興と地域の活性化に取り組む。
食料不安が増大! その理由とは
Q1 食料安全保障について教えてください
A1
食料安全保障とは、全ての国民が安全で栄養価の高い食料を将来にわたって合理的な価格で入手できるようにすることで、これは国の食料政策の基本理念だといえます。海外からの食料輸入がストップするなど、想定外の事態に対して日頃から備えておくことも、食料安全保障の大切な考え方の一つです。国連食糧農業機関(FAO)は、食料安全保障を構成する要素として左記の4点を挙げています。
Q2 食料を巡る世界の現状は?
A2
今、世界の食料需要は年々伸びています。その理由として「アフリカやアジアでの人口急増」「中国などの新興国の食料需要の拡大」などが挙げられます。この一方で、異常気象がもたらす干ばつや洪水などによる農作物の不作が発生するなど、世界の食料生産体制は常に不安要素を抱えていました。
そうした中で起きたのが2020年の新型コロナウイルスの感染拡大です。フードサプライチェーン(食料品の供給網)の混乱が各地で起きて、農作物や生産資材の価格が上昇しました。さらに22年2月にはロシアによるウクライナへの軍事侵攻が起き、世界有数の穀倉地帯であるウクライナからの小麦輸出が滞りました。その影響を受けて、世界の穀物価格が高くなり、アフリカや中東などで食料危機が深刻な状況となっているのです。
Q3 海外の食料供給体制は大丈夫?
A3
世界的な食料不安を背景に、20カ国以上(2022年6月時点)が自国の食料供給確保を優先する輸出規制を打ち出す事態に発展しています。
「自由貿易の番人」といわれる世界貿易機関(WTO)は6月に開催された閣僚会議で、輸出規制に歯止めをかけることに合意しましたが、輸出規制が解除されるかどうか今後の各国の対応が注目されています。
食料安全保障を構成する4つの要素
①Food Availability(供給面)
適切な品質の食料が十分な量供給されているか?
②Food Access(アクセス面)
栄養のある食料を入手するための合法的、政治的、経済的、社会的な権利を持ちうるか?
③Utilization(利用面)
安全で栄養価の高い食料を摂取できるか?
④Stability(安定面)
いつ何時でも適切な食料を入手できる安定性があるか?
出典:FAO Policy Brief(June 2006, Issue 2)
鈴木教授のワンポイント解説 合理的な価格であることが重要
食料安全保障の中で注意したいのは「合理的な価格」という点です。例えば、スーパーの特売などで値段の安い海外産ばかりでなく、国内産の安心・安全な農産物・畜産物を合理的な価格で購入することは非常に大切だといえるでしょう。ひいてはそれが日本の食の安全を保ち、家族の健康を守ってくれるのです。
鈴木教授のワンポイント解説 世界の食料不安が日本に影響
食べ物を自国で賄えるようにしておくことが大切です。世界では食料不安が高まり、小麦やトウモロコシ、大豆などの穀物価格は高止まりしています。また、国際状況の悪化を受けて日本国内でも飼料や肥料など農業生産資材が高騰しています。しかし、コスト上昇分をなかなか価格に転嫁できないため、日本の農家はますます厳しい状況に追い込まれているのです。
日本の食料自給率38%、先進国で最低水準
Q4 日本の食料自給率が低い理由は?
A4
食料自給率とは、日本で消費される食料のうち、どのくらい国内で生産されているかを示す指標です。食料に含まれるエネルギー(熱量)の量で計算するカロリーベースで2021年度の食料自給率は38%、つまり62%を海外に頼っています。先進国の中では非常に低い水準です。食生活の西洋化により米の消費量が減り、パン食や肉・油脂を使った食事が増えたことが大きいといわれています。農地面積の狭い日本では家畜の飼料となるトウモロコシや大豆などを十分に生産できず、食肉や飼料の輸入が増えていったことも自給率低下につながった要因の一つです。
Q5 食料の輸入が止まったらどうなるの?
A5
農林水産省のウェブサイトでは、食料輸入ストップ時に、国内生産だけで国民1人1日2020kcalのカロリー供給が可能なメニューを紹介しています。それによると、朝食のおかずは粉吹き芋とぬか漬け。昼食の主食は焼き芋とふかし芋、夕食のおかずは焼き魚一切れ。牛乳は6日に1杯、卵は7日に1個、肉は9日に1食だけ。こうした質素なメニューを見ると、今の日本の食料安全保障の課題についてあらためて気付かされるでしょう。
Q6 食料自給率向上のために私たちができることは?
A6
政府はカロリーベースの食料自給率を2030年度に45%まで引き上げる目標を掲げていますが、この達成に向けては、消費者の立場でもできることがあります。
まずは「国消国産」を大切にすることです。スーパーなどでの買い物では地元産の農作物を選ぶことを習慣にしましょう。地元の農産品の積極的な購入は、食料自給率の向上に貢献するだけでなく、地元の農家の支援を通じた安定的な食料供給の確立につながるからです。
次に大切なのが食品ロスの削減です。カロリーベースの食料自給率の基礎となる熱供給総量(国民に供給される熱量)には、食品ロス分も加味されるので、こうした活動も食料自給率の向上に効果的です。日本の食品ロスの約半分は家庭から生まれています。買い過ぎや食べ残しをなくすことはもちろん、野菜や果物の皮のむき過ぎにも気を付けましょう。ロスになりそうな食材と消費者をマッチングさせるフードシェアリングアプリの利用もお勧めです。
鈴木教授のワンポイント解説 種子の輸入が止まれば食料危機に
食料自給率38%という数字には、海外産の飼料で育てられた畜産物は除かれていますが、野菜の種子は海外依存でもよいことになっています。ところが、異常気象や国際情勢の変動などで、農作物や生産資材だけでなく、種子までも輸入されなくなると、日本国内の野菜の自給率は75%ではなく10%以下になると予想されています。そのために「在来種」「固定種」と呼ばれる野菜の種を地域で採取・保存していくことは、今後食料安全保障を考える上で重要なテーマになっていくと思われます。