ほっと一息

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2022.09.26

ずっと元気でいるために、 今日から始めよう 健康長寿のための 「食・10カ条」

JA広報通信9月号

取材協力:アクティブシニア「食と栄養」研究会
https://activesenior-f-and-n.com/
イラスト:出口由加子

これから迎えるシニアライフを、健康で元気なまま過ごしたい。
そのために食生活で今気を付けるべきことは? 
アクティブシニア「食と栄養」研究会・運営委員長
(女子栄養大学栄養学部地域保健・老年学研究室教授)の
新開省二先生にお聞きしました。

「高齢者の低栄養」が問題視されています

 平均寿命の伸長に伴い、問題視されているのが、要介護状態や寝たきりになる75歳以上のお年寄りの増加。その大きな原因と考えられているのが「高齢者の低栄養」問題です。

 年齢を重ねるとともに自然と食が細くなり、食事への関心も薄れて、簡単な献立で済ませがちに……。基本的な栄養が不足する低栄養状態が続くと血管がもろくなり、脳の細い血管が詰まってしまう「ラクナ梗塞」を起こしやすくなります。その結果、脳出血や脳梗塞、心不全などを起こして寝たきりになる人が多いのです。また、ただでさえ筋肉や骨が弱りやすい高齢期に低栄養状態が続くと、筋肉や骨の衰えが進行します。そのため、ちょっとした転倒から寝たきりになる人も少なくありません。さらに認知機能が衰える認知症も、低栄養状態が続くと進行しやすくなります。

 

 

 

 

 

高齢期には、ある程度「脂肪の蓄え」があった方がいいのです

 日本では低栄養状態になる65歳以上の女性は男性の2倍近く、しかも増加傾向にあります(図参照)。

これは若い頃からの「痩せ願望」を、高齢期になっても持ち続ける人が多いためと考えられています。肥満の目安となるのが、身長と体重から肥満度を算出する体格指数「BMI」(体重〈kg〉÷身長〈m〉÷身長〈m〉で算出)。厚生労働省が推奨する目標数値は65歳以上で21.5~24.9ですが、最近の疫学研究では、糖尿病などの持病がなければBMI値27くらいまでは特に問題ないと緩やかに考えられています。高齢期の女性は脂肪が少なくなると生存率が低くなります。逆に(少しくらいであれば)、肥満気味の方が健康で長生きすることが疫学上の調査でも分かっています。高齢期には脂肪を減らすより、むしろ蓄えることを心がけましょう。

 

 

低栄養のときによく見られる変化

軽 度
□ 体重が減少気味
□ 風邪をひきやすく治りにくい

中 度
□ 転びやすく、骨折しやすい
□ 集中力や記憶力が低下している

 

重 度
□ 腹部や下半身にむくみがある
□ 皮膚炎や床ずれをしやすい

 

 

低栄養を防ぐための10カ条

1 主食・主菜・副菜をそろえる

 食欲が衰えると食事の支度も面倒に感じられ、ついつい丼物や麺類、パンなどの単品で食事を済ませてしまいがち。1日3食のうち2食は主食、主菜、副菜を組み合わせて食事するように心がけると、三大栄養素のタンパク質、脂肪、炭水化物をはじめ、必要な栄養素をバランス良く摂取することができます。

 

 

2 1回の食事を分けて食べる

 年を重ねると一度にたくさんの量を食べられなくなり、1回分の食事を食べ切るのが難しい状態になることもあります。その場合は「1日単位で必要な栄養が取れればいい」と考え方を切り替え、1食分を2回に分けて食事の回数を増やしましょう。乳製品や果物を、間食として食べるのもいい方法です。

 

 

3 動物性タンパク質を十分に

 100歳以上の高齢者のタンパク質の摂取量を調べると、平均的な日本人よりも多く、さらに動物性のタンパク質の割合が高いというデータがあります。これは、動物性タンパク質などで効率的に取れるタンパク質・アルブミンの血中濃度が高いと免疫力が高くなり、病気のリスクが低くなるためと考えられています。

 

 

4 魚と肉は1日に2食で交互に

 青魚などにはDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)など、老化を防ぐ栄養素が豊富に含まれていますが、タンパク質量は、やはり肉にはかないません。魚と肉を1対1でバランス良く食べるために、昼は魚、夜は肉というように、1日に2食で交互に食べるのがお勧めです。

 

 

5 油脂類の摂取を心がける

 高齢になると油を使った料理を苦手に感じる人が増えますが、「東京都老人総合研究所」(現・東京都健康長寿医療センター研究所)が高齢者を10年間追跡調査したところ、天ぷらや炒め物など油脂をしっかり摂取している高齢者は、摂取しない人より生存率が高いという報告があったそうです。

 

 

6 牛乳を毎日飲む

 タンパク質、脂肪、炭水化物の三大栄養素とミネラルを豊富に含み、飲むだけでこれらを簡単に取れる牛乳は、高齢者にとって理想的な食品です。乳糖不耐症でおなかが緩くなる人は、料理に使ったりして取り続けると次第に乳糖に慣れてきます。ヨーグルトなど乳糖が分解されている乳製品もいいでしょう。

 

 

7 野菜は火を通してたっぷり

 「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)では、生野菜なら両手に載る量(350g)、火を通した野菜なら片手に載る量が1日の摂取の目標とされています。生野菜からしか取れない栄養もありますが、かむ力や消化機能が低下しがちな高齢者は、火を通して軟らかくして、かさを減らした方が食べやすいでしょう。

 

 

8 食欲がないときはおかずを先に

 お米に含まれる糖質は消化吸収されやすく、食べた直後から血糖値を急上昇させます。そのため、食が細い高齢者が白いご飯から食べ始めると、タンパク質が豊富な肉や魚に行き着く前に満腹感が生じて、箸が進まなくなってしまうのです。食欲がないときは、まず肉や魚などのおかずを先に食べましょう。

 

 

9 歯のメンテナンスを小まめに

 加齢に伴い歯周病や虫歯などで歯が失われると、かめるものが減ってきて、食事を楽しめなくなります。低栄養を防止するためには歯を失ったらそのまま放置せず、入れ歯で調整して、しっかりかめる力を確保することが大切です。かかりつけ歯科医を持ち、日頃から小まめに歯のメンテナンスをするようにしましょう。

 

 

10 「共食」の勧め

 食欲がないときも、よく食べる人と一緒だと釣られて食べてしまうことがありますよね。また人と一緒に食べると食品の摂取品目が多くなりやすいので、バランスの取れた食事になり満足感も高くなります。1人暮らしでもできるだけ「人と食事を共にすること」を心がけましょう。