ほっと一息
2022.06.04
なくそう食品ロス ハンバーガー
JA広報通信5月号
食品ロス問題ジャーナリスト●井出留美
ハンバーガーショップの袋を提げている人をよく見ます。ハンバーガーは片手で持てるくらい軽いですが、作られるまでに使われた水はどれくらいだと思いますか?
答えは「3000L」です。英国の科学者、スティーブン・エモット氏が著書『世界がもし100億人になったなら』(マガジンハウス、満園真木訳)で語っています。一般的な家庭のお風呂が200Lですから、その15杯分の水が使われているのです。バンズ(パン)、牛肉、レタス、トマトなどが生産される過程で使われた水を全て足した合計です。
中でも、最も水を使っているのが牛肉です。肉牛を育てるには、大量の水と飼料、広大な土地が必要です。牛が出すげっぷやおならは、二酸化炭素の25倍以上の温室効果があるメタンガスを排出します。牛肉1kgを生産するには2万Lの水が必要です。これは仮想水「バーチャルウォーター」という考え方で、食料を輸入している国が、その食料を自国で生産するとどのくらいの水が必要となるかを計算したものです。環境省の公式サイトには「仮想水計算機(バーチャルウォーター量自動計算)」があります。
世界の環境問題を発信するレスター・R・ブラウン氏は、著書『カウントダウン 世界の水が消える時代へ』(海象社、枝廣淳子監訳)で、「飲む水の500倍量の水を食べている」と語っています。食料生産には、それだけ大量の水が必要なのです。
安全な飲料水を飲めない人は世界に20億人。世界の26%に及びます(2020年現在)。生活で水不足に困る人も同数います。SDGs(持続可能な開発目標)の中でも「安全な水とトイレを世界中に」とうたっています。低価格のハンバーガーの多くは、海外から原材料を輸入しています。ということは、間接的に他国の貴重な水を奪っていることにもなるのです。
食品ロス問題ジャーナリスト 井出 留美(いで るみ)
株式会社office3.11代表取締役。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。『食べものが足りない!』『SDGs時代の食べ方』『捨てないパン屋の挑戦』など著作多数。