ほっと一息

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2020.09.17

ストップ! 農作業事故  平衡感覚の低下と高所作業

人間工学専門家●石川文武

 

 人は内耳の骨迷路にある前庭および三半規管で体の回転や加速度、空間的位置を感じています。平衡感覚は、皮膚感覚、深部感覚、視覚とも関連が深いといわれています。身体平衡を保つ機能を平衡感覚といいます。平衡感覚の計測は、閉眼片足立ち両手水平開きで何秒間立っていられるか、開眼で少し足を開いて20秒間じっとしてそのときの重心の動揺程度を調べる方法があります。いずれの測定でも20代前半がピークで、それ以降は加齢に伴って低下する傾向があります。図は閉眼片足立ちの測定結果です。20代では90秒ほどしっかり立っていられますが、50歳では40秒程度、70歳では20秒程度しか立っていられません。重心動揺面積の測定でも、20代では3平方cm(ほぼ1円硬貨の大きさ)程度で安定していますが、50歳を過ぎると動揺面積が増え始め、60歳で10平方cm 、70歳で15平方cm前後と安定を保てなくなっています。

図 加齢による平衡機能の変化 閉眼片足立ちテスト

 

 平衡感覚が低下して、すぐ感じられることは、脚立などに上ったときに、何かにつかまらないと安定が保てないことでしょう。農作業では、両手作業が増え不安定な状態が続き、足場の面積が狭かったり、すねや太ももで安定を保つことができない、遠くの物をつかもうとして体を伸ばしたりすると、墜落などの可能性が高くなります。その意味からも、脚立の場合には天板に乗ることが禁止されていますし、はしごでも、上から1段目、2段目まで上がることを避けるように指導しています。これは、高所作業台車の作業でも同様で、無理に体を張り出さないように注意しましょう。対象物に届かない場合には、脚立やはしごを移動させることが事故回避に有効です。

 

 なお、80歳以上の農業者も多い状況ではありますが、70代後半以上の方でいわゆる労働能力テストに参加するのは「お元気な方」ばかりで、その意味から、80代以降の人の心身諸機能のデータは示されません。