ほっと一息

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2022.03.10

地域を豊かに 種苗法改正を巡る議論に消費者をいかに巻き込むか

JA広報通信2月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 

 最終回は、若い女性が大好きなサツマイモの話。数年前、女優の広瀬すずさんの大好物と話題になり、繊維が豊富なサツマイモは美容と結び付くことで、若い女性に大いに人気である。今や和スイーツブームで栗やユズと共に世界の美食家にも注目されている。

 

 15年前、ペルーの芋類研究所で、世界には5000種を超える芋類があると教わった。当時は、日本に流通する品種の乏しさにがくぜんとしたものだが、多様性が叫ばれて久しい昨今、農水省によれば、サツマイモだけで各地に約60種あり、在来種を加えればもっと多いという。

 もう一つの起爆剤は、コロナ禍前に激増した外国人旅行者の間で、日本の焼き芋や大学芋、干し芋がおいしいと話題になったことだ。そして茨城県は、鹿児島県に次ぐサツマイモ生産量2位、干し芋はトップである。

 

「べにはるか」の干し芋

 

 

 元農協職員でNPO法人有機農業推進協会の理事長、先千尋さんによれば、サツマイモは新大陸でコロンブスに見出され、アフリカ、インド、東南アジア、中国福建省を経て琉球王国に伝わったのが、1605年のことだという。戦後に限らず、日本を飢餓から救った作物で、享保・天明の飢饉(ききん)のときも薩摩藩や関東の農村では餓死者がなかったという。天候不順に左右されやすい米農家の不安を解消すると茨城県で奨励された。

 

 干し芋の誕生は1824年、現在の静岡県で、釜ゆでし、薄く切って干したことで販路を広げ、軍隊の携行食としても活躍した。

 

 さて、そのサツマイモは、農家が種芋から増やすのが一般的だが、2022年4月、改正種苗法の施行によって登録品種の自家増殖や自家採取は禁止になる。JA常陸組合長の秋山豊さんによれば、「べにあずま」は2000年に育成権が消滅し一般品種となったが、干し芋作りで人気の「べにはるか」は、この秋、やっと筑波の農研機構が、農家が自分で使う分には当面は許諾料を取らないとネットで発表した。今後の問題点をお二人は、こう指摘する。

 

JA水戸の農産物直売所「わたまる」に並ぶ「べにはるか」

 

 

 

 「まず、法改正の問題点をほとんどの農家が知らない。個人で申請する方法も、個人が譲渡した場合の罰則さえ、分からない。ひたちなか地域だけでもサツマイモ農家は大変な数で、誰が違反し、許諾を得たかを判断するすべも不明なら、実務上、不可能なことを現場に押し付けるつもりだろうか」
 秋山組合長は、日本市場を狙う大企業の遺伝子組み換えビジネスの動向も見据えて、今後も再審議が必要だという。例えば、同県で約4・5haのサツマイモ農家は、毎年、約2000本の苗を買い、自家増殖させているが、今後、許諾料が発生すれば、11万本の苗を購入しなければならなくなるのではないかと不安を募らせる。

 

秋山豊組合長と先﨑千尋さん、種苗法問題を考える映画を制作した山田正彦さんと

 

 

 

 残念ながら、消費者の多くは種の問題に無関心で、自由化の流れにも好意的だ。サツマイモを使った進化系スイーツが続々と生まれる昨今、そんな日常の至福と種を巡る議論がつながっていることを農協はもっと伝えていくべきだ。担い手不足についても、いかに消費者を巻き込み、その消費行動を変えていくかが、今後の鍵である。

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。

1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。