ほっと一息

ほっと一息

2022.01.21

高齢者こそ身につけたい 牛乳習慣

JA広報通信2月号

 

 タンパク質、脂質、炭水化物の三大栄養素を含み、カルシウムなどのミネラル類も豊富な牛乳は、育ち盛りの子どもだけでなく、高齢者が「元気で長生き」するためにも理想的な食品です。 なぜ牛乳が健康維持に良いのか、その効果と飲み方について、桜美林大学大学院教授・柴田博先生にお話を伺いました。

 

 

 長寿大国として知られる日本。今、その食生活は世界的に注目され、粗食という言葉にも注目が集まっています。

 しかし「日本人が長生きになったのは、牛乳や乳製品、肉などを食べるようになり、動物性タンパク質・脂肪分の摂取が増え始めた昭和40年代以降のこと。それに連動して、日本人の脳血管疾患による死亡率は減り始めています」と言うのは、桜美林大学大学院老年学教授の柴田博先生。

 なかでも「牛乳は、脳卒中の原因となる脳梗塞(こうそく)や脳出血が予防できる食品」と言います。

 

牛乳で脳卒中を防ぐ

 もともと血管の細い日本人の脳梗塞や脳出血は、脳の栄養不足によって血管がもろくなり、高血圧によってダメージを受けたり、細いゆえに血栓ができてしまうタイプが多く、太い血管にコレステロールが詰まって起こる欧米人のタイプとは異なります。

 そのため「日本人は動物性タンパク質を一定量摂取することで、血管を健康な状態に維持し、体内のコレステロール値を適正に保つことができるのです。特に高齢者の場合、低栄養が老化を早める原因になるので注意が必要です」と柴田先生。

 牛乳のタンパク質なら、牛肉や鶏肉など、主要な動物性タンパク質の中で最も消化率が優れていますから、速やかに体に吸収することができます。

 

 

長寿の源 「アルブミン」が豊富

 なかでも注目したいのが、体の栄養状態を示すとともに、余命と生活機能障害の予知因子とされているアルブミン。これは、血清中にある分子量の小さいタンパク質で、筋肉をつくったり、さまざまな栄養素を運ぶ働きをする成分ですが、血清アルブミン値と生存率の相関性を見てみると、健康な人の血清アルブミン値は血液100cc中に4g以上あるのに対し、亡くなった人の値は死因を問わず平均2.6gという結果に。

 また、東京都小金井市に住む70歳の地域住民を10年間追跡調査すると、血清アルブミン値の低い人から亡くなっていることが分かりました。(図1・2参照)

 つまり、血清アルブミン値を上げることが「元気で長生き」の秘訣(ひけつ)といえます。「アミノ酸構造が人間の体に近いものほど、アルブミン値を上げる効果があり、食品では牛乳、肉の順に多く含まれています」と柴田先生は言います。

 

1日200ccの 牛乳で元気になろう

 そこで柴田先生が提唱するのが、1日200ccの牛乳を取ることです。「年齢や男女問わず、1日200cc飲んでみてください。一度に飲むのがつらい人は、3回に分けても問題ありません。牛乳の成分は加熱して損なわれるものがないため、カフェオレやミルクティーはもちろん、シチューやみそ汁など、その栄養成分を幅広い料理に使えるところも特長です」  無脂肪乳や低脂肪乳については「ほとんどのビタミン類は脂肪に溶けているため、脂肪を取り除くとビタミン類も取り除かれてしまいます。低温殺菌、高温殺菌は食味の違いですから、好みの牛乳を選びましょう」

 

 

ヨーグルトや チーズでも大丈夫

 また、牛乳が苦手な人は、生乳を原料としたヨーグルトやチーズでもOK。

 「固形乳製品は、液体の牛乳よりも少ない量で同じ効果が得られます。割合としては牛乳の12%が目安。ヨーグルトやチーズには菌が加わっていますから、腸の健康維持にも役立ちますし、風味が変われば飽きずに乳製品を摂取できるでしょう」とすすめます。

 つまり、200ccの牛乳と同等の栄養成分を得るためには、24gの固形乳を食べればいいのです。「ヨーグルトは水分を多く含むため、約140~150g、チーズは35g程度を目安にするといいでしょう」

 

 

体と相談して最適な 食べ方を見つけよう

 牛乳習慣を長続きさせるためには「1日200ccを目安に、いろんな方法で乳製品を毎日の食生活に取り入れていくのがコツ。食べ方としては、朝に牛乳、昼は肉、夜は魚という組み合わせがおすすめです」と柴田先生。

 なぜ朝に牛乳かといえば、牛乳は外食ではあまり飲む機会がないという理由からです。

 「便秘気味の方は、朝冷たい牛乳を一度に飲んで、排便を誘発する方法もあります。自分の好みと体調に合わせて、気長に続けていきましょう」

図1  70歳の血清アルブミン値と生存率 70歳から10年間で、血清アルブミン値と生存率の関係性を示したグラフ。加齢によって血清アルブミン値は減少するものの、値が高い人の方が長生きしている(出典:柴田博『ここがおかしい日本人の栄養の常識』技術評論社2007)。

図2 牛乳を飲む習慣と生存率 牛乳を飲む習慣別に、10年間でどれだけ生存率が異なるかを示したグラフ。あまり牛乳を飲まない男性の生存率は60%だが、毎日飲む人は80%。女性も、毎日飲む人の方が生存率が5%高い(出典:柴田博『ここがおかしい日本人の栄養の常識』技術評論社2007)。

図3 70歳のときの牛乳の飲み方とその後の身長の減少 牛乳を飲む習慣別に、70歳から15年間でどれだけ身長が縮むのかを5年ごとに測定。牛乳を飲んでいる人の方が身長の縮みが少ない。つまり、骨量の減少が少ないため、寝たきりの原因となる骨粗しょう症の予防になるといえる。(出典:柴田博『ここがおかしい日本人の栄養の常識』技術評論社2007)

 

 

柴田 博 先生 (しばた ひろし)

桜美林大学 大学院老年学教授 日本応用老年学会理事長 医学博士 1965年北海道大学医学部卒業後、東京大学医学部第4内科入局。東京都老人医療センター、東京都老人総合研究所副所長を経て現職。研究結果に基づき、高齢化社会や老いについての新たな見解を精力的に発表している。著書は『ここがおかしい日本人の栄養の常識』『生涯現役「スーパー老人」の秘密』(ともに技術評論社)など多数。 寝たきり予防に牛乳が効く  日本の高齢者が寝たきりとなる要因の大きな理由として、脳卒中と骨粗しょう症が挙げられます。骨粗しょう症とは、カルシウム不足や、老化によって骨を作るホルモンが不足することにより、骨からカルシウムが流出し、スカスカになってしまう病気。背中が曲がる、身長が縮む、転んで骨折するなどの症状があり、特に大腿(だいたい)骨の骨折は、寝たきりの大きな原因となっています。  骨粗しょう症は、骨格が小さい、妊娠授乳中に大量のカルシウムを消費する、閉経すると破骨細胞の働きを抑えるホルモンであるエストロゲンが急激に減るなどの理由から、特に女性がなりやすい病気。予防するためには、カルシウムなどのミネラル類、そしてタンパク質の摂取が不可欠です。牛乳を飲んでいる人は身長が縮みにくいというデータ(図3)があることからも、牛乳は脳卒中だけでなく、骨粗しょう症の予防にも効果的な食品といえます。  また、骨にカルシウムを定着させるためには、運動による適度な刺激が必要です。ウオーキングやラジオ体操などで、太ももをはじめ、全身の筋肉を動かし、日ごろから転倒しにくい、柔軟な体づくりを心掛けましょう。 移動能力低下の原因 東京都衛生局編(現・東京都福祉保険局) 「すこやか高齢期のために・第1回高齢期健康栄養調査報告書」(1997年)より イラスト:松林今日子