ほっと一息

ほっと一息

2021.12.23

地域を豊かに 人間的な交流の時代

JA広報通信1月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 

 茨城県JA常陸の秋山豊組合長を訪ねた。「日本の種子(たね)を守る会」の山田正彦さんを介して知己を得た。種の問題から食と農のこれからを考えるこの市民運動の会に、組合員5万人を超える農協の組合長が参加する理由をあらためて尋ねてみたかった。この会では、あまり接点のなかった消費者団体や農協の代表、父母の会、有機農業団体までが対話を始めている。元農林水産大臣の山田さんは国会議員180人が賛同した「TPPを慎重に考える会」を結成。当時、JA茨城県中央会の専務理事だった秋山さんは、TPPに反対する国会前の座り込みで山田さんと出会い意気投合したという。

 

秋山豊組合長、海のような雄大な霞ケ浦を望む

 

 

 秋山さんが、消費者や国との交渉を諦めず、対話を大事にしたいと考えるようになったきっかけは、東日本大震災のときの苦々しい経験だった。福島第一原発事故の風評被害に苦しむ農家のために声を荒げずにはいられなかった。「何の非もなく真面目に農業やってきた人たちが突然、苦境に立たされる。これは自然災害の被害ではなく、あなた方が加害者ですよね。ちゃんと補償すべきだと。すると、これがNHKのニュースで放映されて、後で東電幹部から秋山がそう言ったから加害者になったと嫌味を言われた。でも、茨城の風評被害は2度目だったからね」
 1999年、東海村原発の臨界事故のときである。あのときも農作物は一気に値崩れした。東海村の398戸に賠償金こそ出たものの、直後は中国からの輸入が上回る状態だった。

 TPPに代表される新自由主義への強引な流れの中で、秋山さんは強いデジャブを覚えた。
 「いざとなったら切り捨てる。TPPは明らかに多国籍企業への優遇です。この辺は昭和40年代、父の時代には養蚕が盛んだった。グンゼやカネボウといった企業が買ってくれていた。ところが、その企業が外国に産地を移すと、企業と国の方針ですぐ関税を引き下げ、価格低下が起こった。1kg当たり320円だった繭の値が140円に暴落。米価も下落し、東北の農家は出稼ぎ、この地域でも所得安定のために兼業化です」
 消費者だけでなく、農民にも危機感が足りないと秋山さんは言う。「これは協同組合にとっての危機でもある」国が自由化を進める中、あるとき、生協の女性が、消費者には輸入という選択肢の自由があると発言したときも、秋山さんは思わず「本当に欲しいときにはくれと言ってもあげませんよ」と反論した。「ずっと暮らしてきた農村に宅地化が進み、ちょっと農薬をまけば非難される。これは人間的な交流しかないと思った」以後、生協の女性たちとはいい関係を築くことができた。

 この日、見学したのは「JA常陸アグリサポート」の圃(ほ)場だ。20年前から高齢化が進む農家の要望に応えるため、文字通りの支援だ。畑は年々増えて33haになった。だが、都市の食卓を支えるこの農村の現状を、都市住民はほとんど知らない。最後に秋山さんは農協本部へ一言伝えたいという。
 「先日、知的障害のある高3の女子をJAの選果場に内定したのに、バスがなく、ご両親も車に乗れず諦めざるを得なかった。ぜひタクシーで通える補助を作ってください。お願いです」

JA常陸アグリサポートの「べにはるか」の畑にて、社長の鈴木秀行さんと山田正彦さん(左)

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ)

ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。