ほっと一息

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2021.11.30

地域を豊かに 国際的なブレンダー、人気のレストラン、地域との有機的なつながり 「クラリスファーム」その4

JA広報通信12月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 

 農福連携の草分け、埼玉県熊谷市の「クラリスファーム」の一角にちょっと面白い看板を掲げたオリーブの林がある。そこには「ALL MY TEA」と書かれている。代表の新井利昌さんによれば、オールマイティーとの掛け言葉だが、同名のハーブティー専門店の名でもあり、この一角は、一種の社会的農園なのだという。
 「ご主人の田部井秀明さんと妻のアンナさんは、ベルギーで開かれる品評会で、ルイボスのブレンドティーが3年連続で最高賞を受賞したような国際的なブレンダーです。そんな方が、たまたま、すぐ近くにおられたなんて本当にラッキーですよね」

 

加賀崎勝弘さん

 

 

 昨年、「オールマイティー」は、農園から約40分の深谷市の「ハーズ」という大型生活雑貨店の一角にドリンクスタンドも構えたというので、早速案内してくれた。
 新井さんは、このご縁を幸運だと言ったが、もみ洗いできない国際派のお茶には魅力的な自然栽培のオリーブを隣町で見つけた田部井さんも同じことを言うだろう。
 そんな新井さんが、埼玉県の中で地域を活気づける面白い人たちと出会う大きなきっかけになったのは、2018年の「熊谷圏オーガニックフェス」だった。企画の中心になったのは、埼玉県で「洋食喫茶 PUBLIC DINER」など数軒の人気の飲食店を経営する加賀崎勝弘さんだ。加賀崎さんは、埼玉県の63市町村で活躍する農家や職人、新しい発想で地域に暮らし始めた面白い人物たちと一人一人、足で歩いてつながりを築いていったという。それらの市町村が支え合いながら、オーガニックでサステナブルな地域を育てていこうという壮大なプロジェクトだ。「熊谷圏オーガニックフェス2019」のウェブサイトには、加賀崎さんのこんな言葉がある。
 「自分が生まれ育ち、学び、働く環境には、ご自身が、気づいている、気づいていないに関わらず〈無償の愛〉が必ず存在します。その土地のありたい姿が、その土地らしく、混然一体となってある状況が、まさにオーガニック(有機的なつながり)であり、 HOMEGROWN(地元愛)なのだと思います。ネットの世界に本当の情報はない。本物の音楽と食の力で、起こっている状況の体験こそが、情報を超え、身体化させる。 僕たちは、今や、グローバルを意識する必要なく、ローカルを極めさえすれば、自然に、世界ともつながっていく時代だと考えます」

「ALL MY TEA」店内の新井利昌さん

 

 

 その昼は、旬には新井さんの農園のタマネギも使ってくれるという「洋食喫茶 PUBLIC DINER」でランチをした。「熊谷圏オーガニックフェス」での出会いをきっかけに、「クラリスファーム」では国際的ブレンダーの田部井さんの手による、自然栽培のオリーブの葉を使った数種類のハーブティーを制作、販売に向けてデザインを磨いていた。

ハーブティー用のオリーブの林

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。

1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)