ほっと一息

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2021.11.09

地域を豊かに 農福連携の推進には農協の連携こそ不可欠 「クラリスファーム」その3

JA広報通信11月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 9月、久しぶりに晴れた埼玉県熊谷市の「クラリスファーム」では、昨年から作付けした藍の収穫の最中だった。かつては藍の名産地だったこの地域で、もう一度、地域の文化を復活させようという試みである。

 代表の新井利昌さんが農業に参入したのは2004年のことだ。福祉作業所で受けていた内職が急になくなったことがきっかけだった。そのとき、それならこの辺にないものでも作ってスローライフで生きるかと、ふとひらめいたのが、オリーブ栽培だった。同年、まずは個人で新規就農し、翌年、小豆島から200本の苗を買い、水耕栽培で障がい者雇用を実現した富山県の「働く広場」にも見学に行った。

オリーブ園に立つ新井さん

 
 「雨が降っても働けるというのは大きい」しかもハウスで通年、毎日、繰り返しの作業ならば重度の知的障がいの人も働ける。こうして立ち上げた農業法人「埼玉福興」は、異業種から参入した埼玉県の第1号となった。銀行から3000万円を借りてハウスを建て、ホウレンソウやルッコラなどを栽培。何ができるかは手探りだった。「最初は土で育てようとしたけど、種をまいても芽が出なかった。そこで水耕です」基本的にスタッフは遅れを取り戻すくらいのサポートだという。「100gの袋詰めが130gでも、お客さんに喜んでもらえると思えばいい。今はきっちりできてますよ」

 

 当時は雨天に働けないのは困ると、露地栽培は念頭になかった。だが地元農家の指導でジャガイモやタマネギ、ハクサイなどを作り始めると「発達障がいの人たちは作業が単純だと飽きてしまう。逆に単純作業ができない」ので、栽培だけでなく、梱包(こんぽう)や搬送などいろいろな仕事ができたことが結果的に幸いした。

 「一緒に暮らしてきた仲間たちの都合が先だから、決してシステムじゃないんです」
 順風満帆とはいかないが、5年もたつころには6つの福祉施設と連携し、約300軒の近郊農家の長ネギの苗作りを引き受けるようになった。自然栽培で作れるようになったタマネギは年間約60トンを出荷までする。作業所には酪農家が、元牛舎を安く貸してくれた。

 

 オリーブ栽培は、当初から農薬を使わず、抗酸化作用や血圧を下げる成分を含む葉を売りにしようと考えていた。それでも中古のイタリア製の搾油器を譲っていただくと、2016年には、「国際オリーブオイルコンテスト」で金賞を手にした。

 

 新井さんは、昨年からJAくまがやのキュウリ部会から袋詰めなどの仕事を請け負うようになった。地元の小学生たちと2年前に1haの田んぼを始めたが、キュウリ部会長とは、そのPTA活動で出会った友人同士。政府も障がい者雇用を改善すべく、農福連携を推進しているが、新井さんは、農協との連携に大いに期待している。

 「例えば、タマネギを大規模にやろうと思えば大きな出荷場が必要です。農協が空いている施設を貸してくれさえすれば、すぐにでもここに農福連携の先端モデルをつくることができるんです」

藍の収穫

 

 

収穫したモロヘイヤと

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ)

ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。