ほっと一息

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2021.10.15

地域を豊かに 農を楽しみ、人を引き付けるデザイン 「クラリスファーム」その2

JA広報通信10月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 「クラリスファーム」の母体は、1993年、代表の新井利昌さんが19歳のときに、父親と始めた生活寮である。もともと縫製工場を営んでいた父親が、知人の提案から自宅を改装し、知的障がい者の人たちと暮らし始めたのが最初だ。やがて、そこには知的障がい者や精神障がい者に限らず、少年院を出た障がい者、引きこもり、長期失業者、虐待を受けた若者、難病を患う人、高齢者、シングルマザーと、働く場を見つけにくいさまざまな人々が集まってきた。

 

シングルマザーの集まる
「バツイチファーム」の看板

 2004年から「埼玉福興株式会社」(96年設立)が農業に取り組み始めてからは、健常者だけに頼らない生産体制を手探りで模索してきた。新井さんの著作『農福一体のソーシャルファーム』(2017年 創森社)では、1人での作業も多い水耕栽培は、人といるのが苦手な女性に好都合だったこと、家庭内暴力で福祉課から送られてきた青年は、軽トラックの免許を取得し、野菜の納入も任される社員になったこと、大量の精神薬を処方されていた人が、毎日、畑に出ることで、かつて暴れていたのが信じられないほど変わったことが報告されている。「露地栽培の持つ解放感や運動量の多さが、いかに精神障がい者の情緒安定に寄与しているかを具体的に証明するものになった」と新井さんは結んでいる。

 「クラリスファーム」では、農家約300軒のための長ネギの苗作り、ハクサイやホウレンソウの露地野菜、自然栽培のタマネギの生産と販売などに加え、04年からはオリーブの栽培にも乗り出した。
 さて、その畑で目に飛び込んできたのは、各所に立つカラフルな看板である。個人的には過剰な看板広告が苦手で、地方の景観を悪化させている元凶だと考えている。ところが、この農園の看板は、明らかに過剰なのにユーモラスで楽しい。

 

おしゃれで目立つデザイン

 

 

 「オーガニックな看板が欲しいとなったとき、売っていないから、作るしかないとなった。みんな、うつ病で引きこもりだったT君の作です。看板はまず目立つ。それに畑がおしゃれになる。障がい者施設としては、何より分かりやすい。今日はガンジーの畑へ行ってね、で済むのです」

 新井さんは、数年前、あるイベントでイタリアのソーシャルファーム「ラボラトリオ・ザンザーラ」(ザンザーラはイタリア語で「蚊」の意)を知る。1998年に創立され、2010年からは障がい者のアートの市場を開拓する活動を続けている。大いに刺激を受けた新井さんは、農園のパンフレットを、グループホームで暮らす障がい者たちの合作で仕上げた。

 

クラリスファームのパンフレット

 「みんなをアーティストにしていく、という思いがある。軽トラ、タマネギ、長靴などの写真を撮って、おのおのに描いてもらった。絵が描けない人は文字です」。型破りで、好奇心をそそられるものが完成した。新井さんは、農村を交流とツーリズムの舞台として育てていくのだという。そしてこうつぶやいた。「そのうち、トラクターもみんな白にしたいな」。

 

ガンジーのイラストが目印の看板

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。

1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。