ほっと一息

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2021.09.21

地域を豊かに 農業の価値を伝えることもソーシャルファームの課題 「クラリスファーム」その1

JA広報通信9月号

ノンフィクション作家●島村菜津

 

 埼玉県熊谷市の「クラリスファーム」は、日本のソーシャルファームの先駆けとして注目を集めている。代表の新井利昌さんは、もともと縫製工場を経営していた父親と1993年に障がい者が暮らす生活寮の運営を始めた。そこに暮らす人たちに仕事を探す中で、下請けの仕事がなくなりかけたことをきっかけに農業に参入することを決意、96年に農産物の生産及び販売、障がい者の自立支援サポートを行う「埼玉福興株式会社」を設立した。「クラリスファーム」は同社の就労継続支援B型事業所としての社会的農園のブランド化を目指して生まれた。

 農福連携といっても、全国的にはその多くが、50aほどの畑が主流だ。ところが、ここでは露地栽培が5ha、水田1ha、葉物などのハウス4棟の規模。耕作放棄地ではオリーブも育てている。雇用の機会に恵まれない人たちに仕事をつくると、口で言うのはたやすいが、決して容易なことではないだろう。
 「やりながら、考えてきたという感じです。例えば、ここは深谷ネギの名産地。ネギは手間も技術も必要な作物ですが、僕らにも苗作りならできる。そこで今は約300軒の農家に向けて苗だけを作っています。苗作り、生産、出荷、全ての過程ができなくても、能力に合わせて分業すればできる。誰かの役に立つ仕事であることも大切です」
 閉じた空間で他人と一緒に仕事ができない人が多い障がい者には、農の開放性、自然との親和性は理想的だ。方々に点在する畑を見ると「クラリスファーム」が、高齢化で地域に荒れた農地が増えるのを、食い止めていることも分かる。

 

 タマネギを選別し、出荷の準備

 

 

 7年ほど前から露地栽培を始め、地域とのつながりも良くなっているという。
 「障がい者施設は、何をしているのか分からないので、偏見を持たれやすい。でも露地栽培を始めて、彼らの姿が外から見えるようになったことで、地域の人が声を掛けてくれるようになった。ちゃんと野菜が作れるようになると、評価も変わった」
 新しいグループホームも加えて、現在約40人が生活している。「うちには知的障害や精神障害だけでなく、4年間の引きこもりから復活した人、長くうつ病だった人、刑務所から出所した障がい者もいます。今は障がい者の高齢化問題もあります」。
 ソーシャルファームとは、仕事の見つかりにくい人たちのために仕事を生み、また支援付き雇用の機会を提供するビジネスで、農の担い手不足を障がい者で補うという発想は現場を知らない人の大きな誤解だそうだ。2005年、自らも新規就農した新井さんにとって、流通や小売店ばかり黒字で、時給に換算すれば200円にもならない農業の現状を社会に訴え、変えていくことも大事なテーマだという。
 「昨年から、妻沼小学校の300人の子どもたちと自然栽培で米を育てているんです」
 学校だけでなく、大企業やNPO、さまざまな人が畑仕事に通ってくる。障がい者もきちんと農業ができると証明すること、そして、彼らの多様な生き方が当たり前になり、障がい者という言葉が消えることを新井さんは目指している。

 

新井利昌代表、オリーブ油は国際コンテストで金賞を受賞

 

 

 

 

島村 菜津(しまむら なつ) ノンフィクション作家。

1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生!』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。